全929文字

 「経路の途中にある扉の撮影はご遠慮ください。テロの標的にされるといけないので」。ある海上に架かる吊り橋を取材で訪れた際、橋を管理する職員からこんな事前説明を受けた経験がある。

 吊り橋のメインケーブルに作用する引張力をコンクリートの塊で支えるアンカレイジの内部。厳重に施錠された扉を何枚も抜けた先の大空間にあったのは、ケーブルの定着部だ。1本のメインケーブルが100本以上の細いケーブルに分かれ、鋼製のフレームにそれぞれ固定されている。

世界有数の長さを誇る吊り橋、明石海峡大橋の施工中の様子。写真左に見えるのがアンカレイジ。1996年撮影。本文中の吊り橋とは関係ない(写真:日経コンストラクション)
世界有数の長さを誇る吊り橋、明石海峡大橋の施工中の様子。写真左に見えるのがアンカレイジ。1996年撮影。本文中の吊り橋とは関係ない(写真:日経コンストラクション)
[画像のクリックで拡大表示]

 職員が「テロ」というおぞましい言葉を使ったのは、この場所が吊り橋のアキレスけんとなっているからだ。もし何者かが侵入してケーブルを切れば、落橋の恐れがある。

 もちろん、ケーブルなどが破断する原因はテロに限らない。例えば、車や風などの繰り返し荷重による疲労に加え、水分による腐食もある。その吊り橋では、空調機で室内の温度や湿度を常に管理し、結露が生じないように対策を講じていた。

 引張部材やその定着部が破断したり損傷したりすると、橋全体の致命傷になりかねない。吊り橋のケーブルだけでなく、斜張橋の斜材ケーブルやアーチ橋の吊り材、吊り床版橋の橋台背面に定着したグラウンドアンカーなども同様だ。