「巨大IT企業は通信インフラにただ乗りするのではなく、コストを支払うべきだ」――。
過去何度も議論となってきた通信インフラコストの負担に関する問題が、再び世界で沸騰している。韓国では、韓国SK Telecomの子会社でインターネットサービスプロバイダーの韓国SK Broadband(SKブロードバンド)が、膨大なトラフィックを生み出している米Netflix(ネットフリックス)を相手に、ネットワーク使用料の支払いを求め法廷闘争を繰り広げている。欧州では大手通信事業者のCEO(最高経営責任者)13人が連名で、巨大IT企業に対して通信インフラコストの一部負担を求める声明を出した。通信インフラコストは誰が負担すべきなのか。通信事業者と巨大IT企業の間で、せめぎ合いが激しくなっている。
韓国で通信事業者とネットフリックスがバトル
韓国制作のドラマ「イカゲーム」が世界で大ヒットしているネットフリックス。そのネットフリックスが皮肉なことに韓国で矢面に立たされている。前述のように、韓国のインターネットサービスプロバイダーであるSKブロードバンドが21年9月、ネットワーク使用料の支払いを求めてネットフリックスを提訴したからだ。
SKブロードバンドは、「ネットフリックスは当社が構築した通信インフラを利用して利益を得ているにもかかわらず対価を支払っていない。損失を被っている」と批判する。SKブロードバンドの通信インフラ上で発生するネットフリックスのトラフィックは、18年5月の50Gビット/秒から21年9月には1200Gビット/秒と約24倍に急増しており「損失が増え続けている」(同社)とした。
SKブロードバンドとネットフリックスの対立はこれが初めてではない。SKブロードバンドが19年、ネットフリックスに対してネットワーク使用料の支払いを求めたことが発端だ。ネットフリックスは「支払う義務はない」として韓国のソウル中央地方裁判所にてSKブロードバンドを提訴した。同地裁は21年6月、「ネットフリックスがSKブロードバンドに対価を支払うことは合理的」と判決を下し、ネットフリックス側が敗訴した。もっともネットワーク使用料の支払いについては、当事者間の交渉と合意によって解決を求めることとした。
ネットフリックスはこの判決を不服として控訴する方針を示している。今回のSKブロードバンドの訴えは、ネットフリックスの徹底抗戦を踏まえて、逆に反訴した形だ。
欧州でも21年11月29日、英Vodafone Group(ボーダフォングループ)やドイツDeutsche Telekom(ドイツテレコム)、スペインTelefonica(テレフォニカ)など通信事業者のCEO(最高経営責任者)13人が連名で、世界の巨大IT企業に対して通信インフラコストの一部負担を求める声明を発表した。
欧州の通信事業者は声明文において、「(我々は)欧州の通信インフラに対して過去6年間で最高となる年525億ユーロ(約6兆7000億円)を投資している」ことを明かし、これらの通信インフラにおけるネットワークトラフィックの大部分と増加分について「巨大IT企業が生み出し収益化している」と主張。「巨大IT企業が公平にネットワークコストを負担する場合において、通信インフラが持続可能になる」とし、通信インフラを使って巨大な収益を生み出している巨大IT企業に対して対価を求めた。
通信事業者が、巨大IT企業に対して通信インフラコストの一部負担を求める動きは過去、日本でもあった。2006年に当時NTTコミュニケーションズ社長だった和才博美氏が、動画サービスを提供する事業者に対し「我々が構築したインフラにただ乗りしている。許される行為ではない」と痛烈に批判し、インフラただ乗り論争が勃発した。総務省の有識者会議などでも議論が重ねられたが、明確な結論が出ないまま論争自体が下火となっていった。
ここにきて、世界を舞台に再びインフラただ乗り論争が再燃しているのはなぜか。