この3年ほどDX(デジタルトランスフォーメーション)の取材を続けているなかで、取材先や編集部の記者とたびたび「DXとは何か」について話してきた。DXに取り組んでいるという企業を取材した結果、「DX事例として取り上げるのは難しい」と判断したことは何度もあるし、「この事例はDXといえるか」で記者と議論したこともある。DXの解釈はいまだに定まっていないように感じる。
経済産業省が作成し公表する『デジタルガバナンス・コード2.0』(旧『DX推進ガイドライン』)は次のようにDXを定義している。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
要約すれば、「データとデジタル技術によって競争優位を確立する変革」だ。筆者にとって納得感のある定義だ。これがおかしいという声は聞かない。ただしふわっとした定義であることは否めない。特に「デジタル技術」とは何かが人によって違うだろう。
デジタル技術はITの一種だから、試しに言葉を置き換えてみると、「データとITによって競争優位を確立する変革」となる。これでは何の新鮮味もない。従来、企業が綿々と取り組んできたことだからだ。
新しいITが登場・普及するたびに起きた変革や革命
筆者は25年以上にわたり企業のIT活用を追ってきた。その間にはさまざまな「IT」による変革や革命が起きた。1990年代半ばには電子メールやグループウエアが普及し、「コミュニケーション変革」が起きた。その後も「ERP革命」「インターネット革命」「Web革命」など新しいITが登場・普及するたび、変革や革命が起きている。
筆者はDXをこの流れの中で捉えている。現代における先端ITによる変革がDXというわけだ。
従来の変革・革命は「ERP革命」「インターネット革命」「Web革命」のように1つの技術で呼ばれていた。しかしDXでは「デジタル技術」という汎化した表現になっている。それは粒ぞろいの先端ITが幾つも同時に登場・普及しているからだろう。1つに絞り込めず、デジタル技術と呼ぶしかない。
デジタル技術を列挙してみよう。DX事例でよく登場する主なデジタル技術に絞っても、ブロックチェーン、量子コンピューター、クラウド、コンテナ、IoT(インターネット・オブ・シングズ)、ビッグデータ、AI(人工知能)、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)、デジタルツイン、メタバース、ドローン、ロボティクスなど枚挙にいとまがない。
1つひとつが社会や産業に大きなインパクトを持つ技術であり、「ブロックチェーン革命」「量子コンピューター革命」のように技術ごとのキーワードをつくっても成立するだろう。これがDXを分かりにくくしている原因の1つだと考える。