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 米Tesla(テスラ)によるエアコン事業への参入宣言が話題になっている。2020年9月22日に開催した株主総会において、同社最高経営責任者(CEO)のElon Musk(イーロン・マスク)氏が、21年に家庭用エアコン事業を始めるかもしれないと発言したのがきっかけである。しかし、テスラは本当にエアコンを造りたいのだろうか。

 実際には、テスラはエアコンの中核技術が欲しいのではないか。筆者がそう思うのは、同社が電気自動車(EV)よりも電池に執心しているように見えるからだ。最終製品の数量やシェアを追うのではなく、中核技術を押さえることで“ゲームチェンジ”を起こし、覇権を握る。エアコン事業への参入宣言からは、そんな戦略がうかがえる。

最終製品の品質には興味なし?

 日経クロステックでも既報の通り、テスラは電池の内製化に本腰を入れ始めた。これまで同社は、複数の電池メーカーを使い分けることによって、電池の調達量を確保するとともに、性能向上や価格低減を促してきた。しかし、電池メーカー任せでは技術革新がなかなか進まないと見て、原料レベルからの内製化に踏み切った。

 一方で、これは完全に筆者の主観なのだが、最終製品としてのEVの品質には電池ほどの関心が払われていないように思える。20年6月に米J.D. Power(J.D.パワー)が発表した自動車の「初期品質調査(IQS:Initial Quality Study)」において、テスラは32ブランド中、最下位だった。米Consumer Reports(コンシューマーリポート)誌が同年11月に発表した自動車ブランド信頼度調査の総合ランキングにおいても、テスラは26ブランド中25位(前回から2ランク低下)と低迷している。

* 米国市場で20年モデルを購入またはリース契約したユーザーを対象に、最初の90日間の不具合件数を聞き取り、ブランド別にランキング化したもの。ただし、テスラについては一部の州で十分なデータを収集できなかったことから、正式なランキングとはしていない。テスラが米国自動車IQSの対象になったのは今回が初めて。
J.D. Powerが2020年6月に発表した自動車「初期品質調査(IQS)」の結果。新車100台当たりの不具合件数を指標化したもので、数値が大きいほど品質が低い。調査データ不足もあって正式なランキングではないものの、テスラは圧倒的な最下位だった(出所:J.D. Power)
J.D. Powerが2020年6月に発表した自動車「初期品質調査(IQS)」の結果。新車100台当たりの不具合件数を指標化したもので、数値が大きいほど品質が低い。調査データ不足もあって正式なランキングではないものの、テスラは圧倒的な最下位だった(出所:J.D. Power)
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 20年11月27日には、米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)がテスラの「Model S」「Model X」について、前輪サスペンションの安全性に関する予備的調査を開始すると発表した。同社は、既に中国市場ではサスペンションの欠陥を理由に両モデルのリコールを決めている。

 そのような状況もあってか、同年12月に「テスラが既存自動車メーカーの買収を検討している」などと報じられた際には、話題を呼んだようだ(マスク氏の実際のコメントはそこまで前向きなものではなかったみたいだが)。確かに、「既存自動車メーカーを買収して課題の品質を強化する」というようなストーリーは、納得のいくものではある。

 しかし、そもそもマスク氏には、最終製品としてのEVの品質をもっと良くしようなどという考えはほとんどないのではないか。多くの品質問題を抱えているにもかかわらず、経営資源を電池に振り向け、今後はさらにエアコンにも手を出そうというのだから、EVの品質については割り切っているとしか思えない。