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 「地下に目を向けよう」という話をしたい。工場のBCP(事業継続計画)の話である。中でも地下に埋設された高圧ケーブルと特別高圧ケーブル(以下、高圧・特高ケーブル)の劣化対策についてだ。

工場敷地内を走る高圧ケーブルと特高ケーブルのイメージ
工場敷地内を走る高圧ケーブルと特高ケーブルのイメージ
(出所:九州電力)
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 工場の地下が抱える問題に筆者が関心を持ったのは2019年。大規模な豪雨被害が多発した年だ。全国の大規模工業団地や工場の敷地内が冠水。部品や製品を運搬するトラックが動けなくなったり、マシニングセンターや電気室が稼働しなくなったりして、稼働停止を余儀なくされる工場が相次いだ。

 当時、こうした工場の冠水被害を追いかけている中で、「地下排水路の問題に頭を悩ませている工場がある」という話聞いた。高度経済成長期に建設された古くて大規模な工場には、地下の排水路がどのようにつながっているのか、どの程度の勾配なのか分からなくなっているケースが多い。そのため「豪雨の際、なぜ冠水が発生するのか、どうすれば冠水を防げるのかが分からない」という工場が少なくないというのだ。

 以来、工場の地下が抱える問題が気になっていた。筆者は建築雑誌の編集部に在籍していた時期、くいや擁壁の構造、地盤など地下の問題点をたびたび取り上げた。地下の問題は目に見えないので軽視されがちだが、実は致命的なトラブルにつながりかねない。工場の地下にも、排水路以外に重要な問題があるのではないか――。

 そんな時、「地下に埋設している高圧ケーブルや特高ケーブルが経年劣化で絶縁破壊を起こし、停電して稼働停止に至る場合もある」という話を、九州電力で耳にした。やはり工場の地下には、まだ解決すべき問題が潜んでいたのだ。

ケーブルの経年劣化を「部分放電」で遠隔診断

 一方で、高圧・特高ケーブルの経年劣化問題に対応するサービスも登場している。九州電力が2022年8月から提供を開始した「PDLOCK」(パドルック)である。高圧・特高ケーブルの部分放電を遠隔地から検知し、ケーブルの経年劣化を診断する。従来、停電などトラブルが発生してから対応していた経年劣化に絶縁破壊対策を、事前に察知して予知保全するためのサービスだ。

「PDLOCK」(パドルック)のサービスのイメージ
「PDLOCK」(パドルック)のサービスのイメージ
自家用ケーブルの接地線に取り付けた CT センサーで信号を取得。検出装置で異常信号とノイズを識別処理してクラウドに送信。クラウド上で人工知能(AI)が異常信号を解析して、部分放電をいち早く察知する。(出所:九州電力)
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 3kV以上7kV未満の高圧ケーブルと7kVを超える特別高圧ケーブルは、電力会社の送電網から工場へ電気を供給する「大動脈」ともいえるインフラ。何らかの理由で断線すれば、工場が停電して稼働停止に陥り、復旧まで数週間を要するトラブルになりかねない。

 ところが九州電力によると、「高圧・特高ケーブルの劣化などを原因とする停電事故は、国内で1年間に平均350件以上も発生している」(同社コーポレート戦略部門インキュベーションラボ PDLOOK事業ゼネラルマネージャーの宮川浩二氏)という*1

*1 発電所やオフィスビルなど工場以外の施設での事故も含む。

 パドルックのサービスでは、こうしたケーブルの劣化を絶縁の劣化による部分放電を捉えて察知する。ケーブル自体の状態を目視で判断するのは難しい。ましてや地下に埋設されていれば絶縁の状態を確認するのは困難だ。現在は、ケーブルに高い電圧をかけて漏れ電流を測定する診断法が主流だが、試験電圧によって絶縁の劣化を促進してしまうリスクがある。

 そこで九州電力は、樹脂などの絶縁が劣化した際に発生する部分放電に目をつけた。ケーブルの絶縁材料に内部欠損や微小な空洞などがあると、電界が集中して局所的な放電が起こる。これが部分放電である。部分放電が起こるケーブルは経年劣化している可能性が高く、これを検知できれば補修や交換によって絶縁破壊による停電を防止できるわけだ。