全2283文字
PR

 2019年12月11日、あるニュースリリースが記者の目に留まった。自動で書類に押印し、その書面を電子化するというロボットソリューションだ。デンソーウェーブと日立キャピタル、日立システムズの3社が共同で開発した。

 デンソーウェーブの小型ロボット「COBOTTA」を2台使い、書類をめくる作業と押印作業を自動化する。COBOTTAとは別に用意したカメラで書面を読み取り、文書をPDFファイルとして保存。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)と組み合わせ、オフィス業務の生産性向上に寄与するという。

デンソーウェーブ、日立キャピタル、日立システムズの3社が共同開発した「RPA&COBOTTA オフィス向け自動化支援」
デンソーウェーブ、日立キャピタル、日立システムズの3社が共同開発した「RPA&COBOTTA オフィス向け自動化支援」
(出所:デンソーウェーブ)
[画像のクリックで拡大表示]

 ソリューション名称は「RPA&COBOTTA オフィス向け自動化支援」。日立キャピタルが2020年3月から月額制のサービスとして販売する予定だ。料金は未定。RPAの初期設定や保守運用は日立システムズが担当する。

 このリリースを見て、記者はやや違和感を覚えた。テクノロジーを駆使して生産性を向上させるなら、紙と印鑑を使わずにデジタルデータだけで完結する仕組みや業務プロセスを導入するほうが効果的に思えたからだ。ロボットで自動化するとはいえ、物理的な押印作業を残しつつその後にスキャンして電子化するプロセスが非効率に感じた。

 記者以外にも違和感を持った人はいたようだ。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)では、「虚構新聞(本当のような嘘の記事を掲載するジョークサイト)かと思った」「エープリルフールのようだ」といった書き込みが散見された。

 もちろん、デンソーウェーブら3社は冗談ではなく本気で事業化を目指している。デンソーウェーブの広報は「印鑑を使わない業務プロセスを否定するわけではない。今回のソリューションで対象にしているのは、あくまで既存業務。現状で多くの企業で存在している印鑑を使う業務の省力化に寄与する」と言う。

 販売を担当する日立キャピタルの広報は「ロボットの展示会に出展し、具体的にどんな業務でニーズがあるかを見極めてサービスを開始したい」と話す。

 確かに押印が法制度で義務付けられている場合などでは役立つかもしれないが、前述した「業務プロセスを変えない自動化」に対する違和感は拭えなかった。

ではソフトによる自動化だったら違和感を覚えるか

 今回の1件でふと考えた。もしこれがロボットではなくソフトウエアだったらどうだろう。別のアプローチで根本から業務プロセスを見直せばより効率化できるかもしれないのに、既存業務をそのままに作業だけをソフトで自動化しているケースに違和感を覚えるだろうか。

 ロボットの動きは目に見えるので既存業務をそのままにしている状態がすぐに分かった。だが、目に見えないコンピュータプログラムの処理で同じことを気付けるかと問われたら、正直自信がない。

 そう考えると「担当者は業務変革をしたつもりだが、実は既存の業務プロセスをITに置き換えただけのプロジェクト」が実は世の中にあふれているかもしれない。本来出すべき効果を上げていないことに気付いていないのだ。そちらのほうが、意図的に業務プロセスを変えずにロボットでの省力化を狙った今回のケースよりもよっぽどたちが悪いのではないか。

 言うまでもなく、企業でのIT化のセオリーは「業務改革が先でシステム導入が後」だ。実際に新しい業務に切り替えるタイミングはシステム導入時だとしても、業務プロセスを見直して要件に盛り込むのが一般的である。業務プロセスを事前に整理することでアプリケーションロジックもシンプルになり、システム導入がしやすくなる。業務改革との相乗効果も出しやすい。

 逆に、業務プロセスを整理しないままシステムを導入しようとすると、ロジックが複雑になり、プロジェクトは難航しがちだ。業務自体が変わらないのでIT化による効果も限定的になる。さらに悪いことにはロジックが複雑なのでシステムも保守しづらい。