2022年最後となる建設分野の記者の眼は、23~25年の展望を述べたい。当初は、25年の大阪・関西万博開催に歩調を合わせた、大阪と京都の大規模な建設ラッシュについて触れようと準備していた。
ところが22年12月半ばを過ぎ、間もなく23年というタイミングで、万博そのものを揺るがしかねない事態が明るみに出た。主要なパビリオンや施設の工事入札が軒並み、不落・不調になっている。万博のような国家プロジェクトには「赤字になっても参加したい」と考える建設会社は今の時代、皆無のようだ。利益度外視の受注など、株主が黙っていないだろう。
23年春に着工と言われる中、22年末時点で万博の中核を成すテーマ事業の「シグネチャーパビリオン」の実施設計や施工を手掛ける企業が決まっていない。なぜ、このような事態に陥ったのか。
記者は22年12月20日付のニュース解説記事で、2025年日本国際博覧会協会が同月14日に開いた記者会見の内容を基に、不落・不調の理由を取り上げた。
一言で言えば、「独創的なデザインや設計を採用しているパビリオンの建設費について、予定価格を決める発注者(テーマ事業プロデューサー)と応札者の間で、設計・施工の難易度や経済性などの評価にかい離が生じている」(協会の石毛博行事務総長)というものだ。加えて、昨今の資材費の高騰は当然、入札が不落・不調になった原因になっているだろう。
だが記者自身は、どうにも腑(ふ)に落ちなかった。他にも理由があるのではないか。記者が見落としている大事な要因がないかを確かめるため、建設業界や万博に関わる人たちに意見や見解を聞いてみた。
そこでよく聞かれた言葉は「リスク回避」である。では、ここでいうリスクとは具体的には何か。大別すると「コスト」と「炎上」の2つである。
コストについては言わずもがなだ。資材費の高騰が一層進むなどコスト高が続く可能性を否定できない現状では、利益を確保しにくい案件をあえて取りにいく必要はない、というものだ。もっともな意見である。「海に浮かぶ人工島の夢洲(ゆめしま)までの人の移動や資材の運搬だけでもコスト高になり得る。インフラが整うまでは労働環境も厳しい」と、現場を不安視する見方もあった。
「実施設計にかけられる時間が足りない」「ステークホルダーが多く、設計がまとまらない」という声も聞かれた。数カ月で実施設計を完了できないと、着工が大幅に遅れる。つまり、コストアップにつながる可能性が高い。
ただし、近く実施される工事入札の再公告では、予定価格が前回より上がると思われる。費用の問題がネックになっているのであれば、今度は手を挙げる企業が出てくるかもしれない。
コストに関連して、こんな見方をした人がいた。建設業界の「2024年問題」の始まり、というものだ。
改正労働基準法による残業時間の上限規制について、建設業の猶予期間が終了する24年4月以降の労働問題を指す。いよいよ残り1年強で現実になる。
万博施設工事の入札不落・不調と2024年問題が直接関係していると言い切れるのか、記者はまだ確信を持ててはいない。しかし、「可能性は十分にある」と妙に納得してしまった。
万博関連の建設工事は、25年4月の開幕に間に合わせる必要がある。その1年前の24年4月に残業上限規制が始まることは、建設業界の人なら誰でも知っている。業界全体の課題である働き方改革は待ったなしだ。
24年春以降、建設会社は人手の確保にますます苦労することになるだろう。資材価格が高止まりするうえに、人件費がさらに上がる公算が大きい。タイミングとしては万博のちょうど1年前であり、応札者側の建設会社は「不確定要素が多そうな万博パビリオンに手を出すのはやめておこう」と、入札の優先順位を下げる心理が働くかもしれない。
幸い、万博案件の工事を回避しても、関西には仕事がある。大阪や京都だけ見ても、大規模な再開発事業が目白押しだ。大阪は、JR大阪駅と梅田周辺で巨大なプロジェクトが幾つも進行中。堂島や中之島も大規模開発が盛んである。水都・大阪の景色が激変しそうな勢いを感じる。
京都に目を向けると、ホテルの建設ラッシュが顕著だ。万博に来る訪日外国人が主要ターゲットだが、ホテル開発は万博後も継続しそうである。
24年春以降、働き手の奪い合いが激しさを増す。そうであれば、不確定要素が多いプロジェクトは避けて通ろうと考えてもおかしくない。ロボットの手を借りれば何とかなるほど、現実は甘くない。