最近、日本で半導体が注目されている。ただし、Rapidus(ラピダス、東京・千代田)を中心とした先端ロジック半導体の話題だ。日本がまだ強いとされるパワー半導体は蚊帳の外の印象だ。「政治家は、ロジック半導体とパワー半導体の区別がついていないのでは」という嘆きが日本のパワー半導体技術者から次々と聞こえてくる。
そんな日本のパワー半導体技術者たちと会話すると決まって、「このままだと日本のパワー半導体は衰退し、ロジック半導体の二の舞いになる」という、行く末を案じた話題になる。理由は大きく4つある。
第1に、海外勢に比べて、ある程度のリスクを負った積極的な投資を実施できていないことだ。その象徴が300mmウエハー(基板)に対応した製造ラインへの投資である。パワー半導体分野で300mmウエハーラインの積極投資に動いたのは、同分野最大手のドイツInfineon Technologies(インフィニオンテクノロジーズ)だ。同社は、2013年に300mmウエハーラインでパワーMOSFETの量産を始めた。
米国ではonsemi(オンセミ)がパワー半導体で攻めの姿勢を見せている。2019年に、米国ニューヨーク州にある米GlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ)の300mmウエハーの製造拠点を買収するなど、300mm化に余念がない。
一方、日本企業が本格的に量産を始めるのは2023年以降と、先頭を走るインフィニオンに比べると約10年遅れだ。さらに海外勢は差を広げようとしている。インフィニオンは2022年11月、50億ユーロを投じて新たな300mmウエハーラインを構築し、2026年から稼働させる予定だと発表した。製造するのはパワー半導体だけではないが、相当な量を製造するのは間違いないだろう。インフィニオンの背中は遠のくばかりだ。
Si(シリコン)に次ぐパワー半導体材料として期待されるSiC(シリコンカーバイド、炭化ケイ素)でも、インフィニオンやオンセミといった欧米勢が積極的な投資を仕掛けている。日本はSiCパワー半導体の研究開発で先行していたものの、こうした投資競争で後れを取っている。
中でも不安視されているのは、SiCのパワー半導体素子を製造するのに不可欠なSiC基板への日本企業の投資が「及び腰」(パワー半導体技術者)であることだ。特に、優れた技術を有するとされながら、事業化に関する話題が乏しいと名前が出るのが、昭和電工とデンソーだ。
昭和電工はかねて、SiC基板の上にSiC結晶をエピタキシャル成長させた「エピ基板」を手掛けてきた。SiC基板は外部から調達してきたが、2018年には、現在の日本製鉄グループが有するSiC基板の製造技術などの関連資産を取得し、SiC基板製造の体制が整う。その後、SiC基板の研究開発成果や口径150mm(6インチ)基板の量産を発表しているものの、具体的で踏み込んだ投資や拡大策が聞こえてこない。
デンソーも同様だ。現在、2020年にトヨタ自動車と設立したミライズテクノロジーズが中心となり、「ガス法」と呼ばれる新しいSiC結晶の成長法を研究している。従来の昇華法に比べて、成長速度が10倍ほどと高いことから、SiC基板の大幅なコスト低減を期待できる。既に20年ほど取り組んでおり、結晶品質も向上し、研究としては成熟してきた。もはやどう事業化するのか、という段階だが、具体的な事業シナリオの発表はまだない。