見積もりを出す際、条件(スペック)が不明確なところは「できるだけ明確になるまで問い合わせる」か「高めのスペック(松)と仮定して見積もる」という企業が日本では多数派を占める。このことは日経ものづくりによる2022年10月の調査で明らかになった。その原因が何かを、日本金型工業会専務理事の中里栄氏に聞いてみた。
中里氏も以前から、金型メーカーの多くが「不明点を問い合わせるか、“松”と仮定して見積もる」傾向について認識していたという。その原因は「最初に出した見積もりから価格が増える方向の変更は、日本の発注者は絶対に認めてくれないため」(中里氏)。したがって受注側は、あとでコスト上昇要因が発生したときに損をするリスクがあり、これを回避するため不明点をできる限り無くすか、高めの見積もりにしておかざるを得ない。同氏は「日本国内ではこれまでそれで通ってきたかもしれないが、『優越的地位の乱用』に他ならない」と指摘した。
中里氏はまた、上記の「優越的地位の乱用」が日本の「過剰品質」を生み出す原因になっていた、とも指摘する。日本の家電メーカーなどが世界的に苦戦していると明らかになった2010年前後に、ガラパゴス化した日本製品は必要以上の品質を持つ過剰品質であるため価格競争力がない、と盛んにいわれた。当時の日本でも、部品調達の際にスペックがはっきりしないところが「松」になったと考えられ、「松」の部品を集めた製品は「松」になってしまう、というわけだ。
金型メーカーは小さな会社が多く「いまだに内需型の産業」(同氏)。工業統計(2019年)によれば9人以下の事業所が全体の71.7%、99人以下の事業所が同98.6%を占め、「輸出した経験のない金型メーカーも多い」(中里氏)。同統計では国内の金型生産高が約1兆3602億円なのに対して、貿易統計(2021年)による金型の輸出高は2336億円にすぎず、しかも「輸出先は日系企業が多い」(同氏)。輸入はさらに少なく、貿易統計(2021年)では1238億円にとどまり、その多くが「国内金型メーカーによる外注委託加工とみている」(同氏)。
品質は、「国内製金型はやはり優れており、海外製とでは差がある」(同氏)状態が依然として続いている。金型の輸入がまだ少ないのもそのためで、国内製と同じように使うには国内での手直しや調整が必要という。そこで金型工業会としては国内金型メーカーの海外進出を支援したい意向だ。会員企業向けに貿易の実務などのセミナーを開いており、そのときに見積もりの作法についても話題になるという。