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 「渋谷が苦手」。そう口にする人は意外に多い。実は筆者もそうだった。あの人混みが、どうにも性に合わなかった。そんな筆者が2019年後半、連日のように渋谷通いを続けることになるとは自分でも想像していなかった。

 渋谷の街の再開発は19年末に、大きな山場を迎えた。新築の巨大なビルが相次いでオープンしたのだ。筆者が渋谷通いを始めた直接の理由は、新しい建物の取材に行く機会が急増したことである。だが気がつけば、遊びに行くことのほうが多くなっていた。個人的には大きな変化である。

 そこで19年最後の「記者の眼」では、激変した渋谷の街のおさらいと、筆者が印象に残った代表的な出来事を取り上げて締めくくろうと思う。なお、筆者の個人的な興味・関心に基づくセレクトであることは、ご容赦いただきたい。

渋谷駅前のビル名はもう覚えた?

 日経アーキテクチュアの記者として、渋谷に誕生した高層ビル群を取材して回るのは自然なことである。誰よりも早く話題の建物に入れるので、いつもワクワクする。取材を忘れて、楽しんでしまうこともよくある。

 渋谷駅の真上に完成した建物「渋谷スクランブルスクエア」。西口のロータリーを挟み、渋谷スクランブルスクエアの向かいにできた建物「渋谷フクラス」。共に19年11月にオープンした2つの超高層ビルである。これらに、18年に開業した「渋谷ストリーム」を加えた3棟が渋谷駅前の景色を劇的に変えた。

かなり遠くからでも見える、夜の「渋谷スクランブルスクエア」。渋谷の目印になった(写真:日経アーキテクチュア)
かなり遠くからでも見える、夜の「渋谷スクランブルスクエア」。渋谷の目印になった(写真:日経アーキテクチュア)
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東急プラザ渋谷が入った「渋谷フクラス」(写真:浅田 美浩)
東急プラザ渋谷が入った「渋谷フクラス」(写真:浅田 美浩)
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 さて、読者のみなさんはどのビルがどの名称か、覚えられただろうか。建物名が分からないと、行き先を示す看板を見ても、どっちに進めばいいか判断できない。

 渋谷駅周辺の複雑な動線を整理・整頓するのが、再開発の大きな目的である。だが当分は、渋谷で迷子になる人は減りそうにない。渋谷ヒカリエや渋谷マークシティ、セルリアンタワーもあるし、鉄道の駅舎も場所が変わるので、しばらくは余計に混乱するかもしれない。

 さらに、渋谷の名物であるスクランブル交差点から北に延びる公園通りを進んでいくと、2つの新しいランドマークが現れる。これまた19年11月にオープンした商業施設「渋谷PARCO」(建物名は「渋谷 パルコ・ヒューリックビル」)と、同年10月に生まれ変わった新しい渋谷公会堂「LINE CUBE SHIBUYA」である。

 どちらも公園通りの歴史と共に、数々の渋谷カルチャーを発信してきた象徴的な施設だ。その2つが同時期に建て替えを完了した。

新生「渋谷PARCO」ができた「渋谷 パルコ・ヒューリックビル」(写真:吉田 誠)
新生「渋谷PARCO」ができた「渋谷 パルコ・ヒューリックビル」(写真:吉田 誠)
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新しくなって呼び名も変わった渋谷公会堂「LINE CUBE SHIBUYA」(写真:日経アーキテクチュア)
新しくなって呼び名も変わった渋谷公会堂「LINE CUBE SHIBUYA」(写真:日経アーキテクチュア)
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 渋谷駅前と公園通り沿いに、新築の大きな建物が一斉に立ち上がった。街を歩く人の流れは、明らかに変わりつつある。駅前だけでも大概の用事は済ませられるだろうが、わざわざ公園通りの坂を上り下りする人を大勢見かける。坂の途中に、訪問者を引き付ける「何か」があるからだ。

 建築メディアに所属する筆者が言うのもなんだが、渋谷の新しいビル群は建物自体が訪れる目的になることは少ない。建築そのものをめでるタイプの建造物ではないからだ。

 筆者を引き付けるのは建物ではなく、その中身。コンテンツだ。渋谷通いを始めたのは、新しい建物のオープニングを飾るにふさわしい様々なイベントや仕掛けを堪能するためである。具体的には、エンターテインメントとアートだ。