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日経コンピュータ編集長 浅川直輝
日経コンピュータ編集長 浅川直輝
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 政府は2021月2月9日、デジタル庁設置を含むデジタル改革関連6法案を閣議決定し、国会に提出した。このうちの1つが、全国の自治体の情報システムを標準化・共通化する方針を示した「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律案」である。国には「システムの標準化の推進に関する施策を総合的に講ずる責務」を、自治体には「システムの標準化を実施する責務」を持たせる。

 立法の背景にあるのが、コロナ対策を通じて明らかになった行政デジタル化の遅れ、いわゆる「デジタル敗戦」だ。

 例えば、国民1人ひとりに10万円を配布する特別定額給付金のオンライン申請では、政府のシステムと自治体のシステムをスムーズに連携できず、紙による目視で住民情報を確認する自治体もあった。このとき以降、連携がうまくいかない要因の1つに、約1700の自治体がそれぞれ独自仕様の情報システムを開発・運用している点があるのでは――との認識が政府内で広がった。

 自治体システムの共通化・標準化の方針について、政府は2020年12月に閣議決定した「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」などで概要を示している。自治体システムのデータやアプリケーションの標準仕様を定めた上で、原則として全ての自治体に対して、2025年度までに標準仕様の情報システムへ移行するよう求める考えだ。

 だが「2025年へ向けて自治体の情報システム標準化・共通化を推進」するという政府のスケジュールは、十分な議論や検討に基づくものとは言えず、現時点では生煮えの感が否めない。

 同法案や基本方針を見る限り、標準化の粒度や中央省庁と自治体の役割分担など、未決定の項目が多い。「5年後までに移行」という期限に縛られ、プロジェクトの難度の高さを考慮せず計画を進めれば、かつて同じ要因で刷新プロジェクトが頓挫した年金システムや特許庁システムの二の舞いになりかねない。以下、自治体システム標準化の方針や計画を検証する。

17分野で標準化、業務プロセス改革も

 政府が標準化・共通化の対象としているのは、住民基本台帳や各種地方税、各種保険、児童手当、就学など、法律に基づき自治体が実施する17の事務である。政府はこの17分野に関わるシステムについて、標準仕様への準拠を義務付ける方針だ。

 標準仕様の策定に当たっては、「利用者の利便性向上」と「行政運営の簡素化・効率化」に立ち返った業務プロセス改革(BPR)を徹底する。BPRを通じ、システムのみならず業務プロセスの標準化も進める。

 ITインフラは民間のクラウドサービスを想定し、「ガバメントクラウド」として国主導で共同調達する。標準準拠システムへの移行が完了する2026年度までに、自治体システムの運用費を2018年度比で少なくとも3割減らす目標を掲げた。

自治体システム共通化のスケジュール。2025年度末に「原則、全ての地方自治体で活用を開始」とイメージする
自治体システム共通化のスケジュール。2025年度末に「原則、全ての地方自治体で活用を開始」とイメージする
(出所:内閣官房IT総合戦略室「地方自治体によるガバメントクラウドの活用について(案)」、2021年1月)
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 既に総務省などの担当省庁や内閣官房IT総合戦略室などは2020年から、自治体システムの標準化や業務プロセスの可視化を先行して進めている。各ITベンダーが提供するパッケージシステムの共通部分をくくりだして標準機能と定めるほか、標準の業務プロセスをBPMN(Business Process Model and Notation)形式で記述する。まず人口20万人超の中核市を想定して標準仕様を定め、大規模および小規模自治体にも展開する考えだ。

課題は人的リソースにあり

 全国1700の自治体が個別に行政システムを運用する――この現在の体制に無駄が多いのは間違いない。

 既に小規模自治体はパッケージソフトの活用や「自治体クラウド」へのシステム集約を通じ、ITコストの削減を図っている。

 一方で大規模自治体、特に人口50万人超の政令指定都市の中には独自にシステムをつくり込んだ結果、運用費が高止まりして財政を圧迫しているケースも目立つ。

 これらの点を勘案すると、自治体システムの標準化という方向性そのものは間違っていないだろう。

 問題にすべきは、目標へアプローチする方法だ。標準仕様の作成やシステム移行への難度はどれほどか、「5年後までに移行」という目標に必要なIT人材を確保できるのか、などを検証する必要がある。

 自治体業務のBPRや標準化、標準システムへの移行は、いずれも並大抵の作業ではない。「5年後」という年限に縛られて拙速に業務プロセス標準を策定し、それが現場の実情と乖離(かいり)していれば、現場の業務は大混乱に陥る。

 さらに自治体がシステムを標準仕様に準拠させるに当たっては、現行システムを調査してデータやアプリケーションを標準仕様に移行させるためのIT調達、標準プロセスに適合した組織構造の変更、標準プロセスを熟知したデジタル庁や総務省などの職員による移行サポートなども必要になる。政府と自治体は、そのために必要な予算や人的リソースの確保にメドをつけた上で、改めてスケジュールを組み直す必要があるだろう。