PR
日経コンピュータ編集長の大和田 尚孝
日経コンピュータ編集長の大和田 尚孝

 ランディ・バースという元阪神タイガースのプロ野球選手をご存じだろうか。40代以上であれば知っている人が多いだろう。阪神ファンなら「アホなこと聞くな」と怒り出すかもしれない。

 知らない人のために簡単に説明すると、1983年から1988年まで阪神に所属し、1985年と1986年に三冠王を2年連続で達成した名選手だ。ちなみに三冠王とは同一シーズンに本塁打王と首位打者、打点王の3タイトルを総なめにしたという意味である。

 タイトルに付けたバースは元三冠王を指すわけではない。富士通が新たに投入する金融機関向けクラウド「バンキング・アズ・ア・サービス」のことだ。頭文字をとってBaaS(バース)と読む。銀行の勘定系システムをパブリッククラウドに載せて、従量課金制で提供するサービスだ。

 富士通は2020年度の稼働に向けて開発に着手している。富士通のパブリッククラウド「K5」の上で、同社がこれまで開発してきた勘定系のソフトを走らせる。

 バースを使えば銀行は勘定系システム用のサーバーを購入する必要がなくなる。富士通によれば、銀行が勘定系システムを自前で持つよりも初期費用を半分以下に減らせる可能性があるという。

 運用保守の手間も減らせる。ハードウエアやソフトウエアの更改作業が不要になるからだ。サイバー攻撃などへの対策も任せられる。「取引量が増えたからサーバーを増設しなくては」「サイバー攻撃の新たな手口に早急に対策を」といった心配が減る。

 銀行の勘定系システムの構築維持費はメインフレームを使う場合だとざっくり100億円以上、オープン系でも50億円以上とされてきた。クラウド型だとさらに下がり、歴代の勘定系のなかでは「最安」となる見込みだ。

 クラウド上で勘定系システムを動かせば、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を使ってデータ分析などのサービスと連携させやすくなる。取引データを基にした新しい金融サービスの開発、顧客の嗜好分析などを進めやすくなる。データ活用などの「使い勝手」でも、バースはナンバーワンを狙える。

 「コスト」と「使い勝手」の2冠を手にしたとして、最も難しいのが「導入数」のタイトルだ。というのも富士通の勘定系商談はこの15年間ほど失注続き。つい最近も東邦銀行が富士通製から日本IBM製システムへのリプレースを決めた。かつては地方銀行向け市場で日本IBMと首位を争っていたが、今や導入先は10行を割り地銀向けシェアは1割にも満たない。

 巻き返しの秘策がバースだ。富士通は地銀や大手銀行にも導入を働きかけるが、本命は新たに銀行業に参入をもくろむ流通業やサービス業など異業種の企業である。新規参入行にとってシステム投資は重く、バースを使えば黒字化のハードルを下げられる。

 黒字化のハードルが下がって銀行業に参入する企業が相次ぎ、その需要を富士通が取れれば、「導入数」のタイトル奪回と三冠王が夢ではなくなるかもしれない。

 もちろん道のりは平坦ではない。銀行向け勘定系を巡っては日本ユニシスが一足先にクラウド型の新サービスを発表済みだ。日本マイクロソフトの「Azure」を活用し、北國銀行(石川県)が採用を決めるなど幸先の良いスタートを切った。日本ユニシスも当然ながら新規参入行を狙ってくるだろう。

 元阪神のバースは1985年の阪神初の日本一に貢献した。富士通のバースも低迷する金融向け事業を引き上げて3冠王を達成するのか。それとも「名前負け」に終わるのだろうか。