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 「商人はリヨンの大市に商品をいっさい持ち込んでいなかった。持ってきたのは、机一つとインク入れだけだ。(中略)それなのに、何週間かして大市が終わる頃には、青白い学者然とした男は驚くほどの大金を手にしているのである。この男は詐欺師だ――だれもがそう思った」

 フェリックス・マーティンは「21世紀の貨幣論」のなかで、16世紀における銀行の起源をこのように描いている。銀行に初めて触れたとき、それを理解できなかったのはリヨンの人々だけではないようだ。「第一国立銀行」の創設に携わった渋沢栄一は、西欧から輸入したえたいの知れない存在を明治の人々に説明するために苦慮したという。

 時代は下り現代。銀行は随分身近になった。就職すれば当たり前のように銀行口座を開設し、住宅を購入するのにローンを借りる。資産運用を任せる人もいるかもしれない。

 ただし、スーパーマーケットで日用品を購入したり動画配信サービスではやりのドラマを楽しんだりすることに比べ、銀行には手触り感が少ないという人は多いのではないか。分かりやすい形でモノを売っていないからだ。それこそ、「机一つとインク入れ」でビジネスをしているというイメージは、リヨンの大市に銀行家が登場してから500年近くがたった21世紀もなお、払拭されきってはいないように感じる。

 もちろん、手触り感があった方が優れていると言いたいわけではない。あくまでイメージの問題なのだが、それが今、変わろうとしている。鍵を握るのは非金融事業者。商品・サービスを売ってきた企業が、堰(せき)を切ったように銀行サービスに参入してきたのだ。

金融でもうからなくていい

 ヤマダデンキや大塚家具を傘下に持つヤマダホールディングス(HD)が銀行分野に参入する。正確にはヤマダHDが銀行になるわけではなく、銀行代理業として預金や融資といった銀行サービスを手掛ける予定だ。

 ヤマダHD事業統轄本部金融事業部代表兼ヤマダファイナンスサービス代表取締役の古谷野賢一氏は、「金融でもうからなくても、住宅リフォームや家具家電の購入につながればいい」と語る。

ヤマダホールディングス本社にある「LABI1 LIFE SELECT 高崎」
ヤマダホールディングス本社にある「LABI1 LIFE SELECT 高崎」
(撮影:日経FinTech)
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 同社が描いているのは次のような絵姿だ。提携するハウスメーカーで住宅を購入したりリフォームをしたりした顧客に住宅ローンを提供する。住宅を購入すると、家具家電も新調したくなる。そこで、ヤマダデンキなどで使える優待を付けて送客を図る。さらには住宅ローンに家具家電も組み込めるようにしておき、顧客の予算不足による機会損失も防ぐ。ヤマダHDが手掛ける商品・サービスに、金融を融合させようというわけだ。