日経SYSTEMS編集長 森重和春

 企業におけるデジタル変革について、システム開発のプロジェクトマネジメントという観点から考えてみたい。

 デジタル技術によるビジネス変革を表す言葉の1つに、「デジタルディスラプション(デジタルによる破壊)」がある。ひと言でいえば、ITの力で従来のビジネスモデルを破壊し、新たなビジネスを作り出していく動きだ。

 デジタルディスラプションと聞いて、それを実現する要素として思い浮かべるのは何だろう。「常人には思いもつかないような斬新なビジネスアイデア」「他社の先を行く新しいテクノロジーの活用」などはその典型だろうか。少なくとも、デジタルディスラプションの必須要素は何かと聞かれて、「プロジェクトマネジメント」を挙げる人はあまりいないように思う。

 システム開発におけるプロジェクトマネジメントでは、「計画した予算内で、スケジュール通りに、十分な品質の成果物を完成させる」取り組みが重視されてきた。「計画通り」という言葉が似合う分野で、「これまでにない新しいビジネスを作り出す」という要素においては脇役のイメージがある。ビジネスを企画する担当者が「あれもやりたい、これもやりたい」と訴えても、プロジェクトマネジャーがそうした変更要求を最低限に抑えてシステム開発を進める、といったイメージだ。

求められる「ネクストプラクティス」

 筆者は先日、米PMI(Project Management Institute)のマーク・ラングレー プレジデント兼CEO(最高経営責任者)に取材する機会を得た。PMIは様々な業種の組織を対象に、プロジェクトマネジメントの成否とその要因を調査している。プロジェクトを予定通りに完了させ、収益実現の成熟度が高い組織を「勝者」、低い組織を「敗者」に分類して、両者を比較している。

米PMIのマーク・ラングレー プレジデント兼CEO
米PMIのマーク・ラングレー プレジデント兼CEO
(撮影:菊池くらげ)
[画像のクリックで拡大表示]

 その結果を基にラングレーCEOは、「どの業界においても、テクノロジーによる破壊が進んでいる。破壊的な時代には、プロジェクトマネジメントは『ベストプラクティス』から『ネクストプラクティス』への変革が求められる」と説明する。つまり、デジタルディスラプションの実現に、プロジェクトマネジメントが大きなカギを握るというわけだ。

 ラングレーCEOの言う「ネクストプラクティス」とは何なのか。同氏は将来のプロジェクトマネジメントの主要なテーマとして、次の3つを挙げる。

  • 価値創出の全容の把握
  • プロジェクトプロフェッショナルの進化
  • 破壊に乗じる

 破壊的な時代には、プロジェクトマネジメントにおいて価値創出の全容を把握できるように取り組むべきだという。そのために不可欠なのが、組織の「アジリティー(敏しょう性)」だ。そして、組織のアジリティーを高めるための手法の1つが、アジャイル開発である。