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 「葛藤はなかったのか」――。筆者の問いかけに、PayPayの馬場一副社長は「ものすごいあった」と答えた。2021年10月に実施した加盟店手数料の有料化についてである。同社は、コード決済サービスにおける中小店舗向け手数料を決済金額の最低1.6%に設定した。馬場副社長はこう続ける。「当社へのインパクトはもちろん、コロナ禍によって中小・零細企業が困っている状況で社会的に大丈夫なのか。ぎりぎりまで議論を重ねた。それこそ発表の前日までだ」。

 もともと中小店舗向けの手数料無償化施策は2021年9月末までのキャンペーンという位置づけであり、有料化は既定路線。しかも、リリースから3年間でPayPayはコード決済分野で最大シェアを築くに至っていた。それでも迷いは相当あったという。

 一方で勝算も立っていたようだ。「PayPayの解約意向は約2割」という調査結果が、メディアをにぎわしたことは記憶に新しい。実はPayPayによる独自調査でも同じような数字が出ていた。

 ソフトバンクに長く身を置いてきた馬場副社長は、「例えば、ソフトバンクにない携帯電話の新機種を他社が発表すると、多くの人が乗り換えるとアンケートで回答する。しかし、実際に(ソフトバンクとの契約を)やめる人はそれほど多くない。どれくらいの割合になるかは、だいたいの見当がついている」と明かす。

 PayPayが手数料の有料化に踏み切ったことは、小康状態を保っていたキャッシュレス事業者間の競争に火をつけた。特に、ポイント還元競争などから一定の距離を置いてきた楽天の参戦は耳目を集めた。

 PayPayの発表から1週間もたっていないタイミングで、「楽天ペイ」を運営する楽天ペイメントは、年商10億円以下の新規加盟店を対象に手数料を実質0円にするキャンペーンを発表。加盟店の獲得は一挙に10倍に跳ね上がった。

 楽天ペイメントによる対抗施策はセンセーショナルではあった。ただし筆者は、両者の全面対決に向けた前哨戦にすぎないと捉えている。「屋島の戦い」で、那須与一が平家の船に立てられた扇の的を射落としたエピソードと同じ。あくまで本番はこの後である。