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日経クロステック IT編集長 森重和春

 2022年は多くの企業にとって、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みをさらに推し進める1年になりそうだ。DXを実践するうえで、筆者が注目すべきだと考えるキーワードを紹介したい。選んだのは「デジタル原則」「内製力の強化」「リスキリング」の3つである。

 2021年は、2020年から続く新型コロナウイルス禍の困難な状況の中、あらゆる分野でデジタル技術の活用が進んだ1年だった。企業におけるテレワークの浸透をはじめ、企業の様々な事業活動のオンライン化や非接触化が加速した。デジタル技術を用いてビジネスを変革するDXへの取り組みが広がった1年だったといえる。

 2022年への年越しが間近に迫った2021年12月24日、政府は「デジタル社会の実現に向けた重点計画(デジタル重点計画)」を閣議決定した。その中には、同年12月22日に「デジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)」で定めた「デジタル原則」が盛り込まれた。

 この原則に基づいて各省庁の4万件以上の既存法令などを2022年春までに総点検し、洗い出した問題点を今後3年間で見直す方針だ。書面の提出や対面などを必要とするこれまでの規制を緩和し、様々な分野においてデジタルで業務や手続きが完結する社会を目指す。

デジタル原則:企業のDX実践の指針になる

 デジタル原則とは、デジタル社会の実現に向けた構造改革のための原則だ。(1)デジタル完結・自動化原則、(2)アジャイルガバナンス原則、(3)官民連携原則、(4)相互運用性確保原則、(5)共通基盤利用原則――の5つからなる。

 先行して進めている規制見直しには例えば、トンネルや橋の維持修繕のための目視点検について、ドローンやレーダー、センサーといった新技術を活用して代替を可能とする取り組み、建築士の定期講習のオンライン化などが挙げられる。

構造改革のためのデジタル原則(案)

原則(1)デジタル完結・自動化原則
書面や目視、常駐などを義務付ける手続き・業務について、デジタル処理での完結や機械での自動化を基本とし、行政内部も含めたデジタル対応を実現する。

原則(2)アジャイルガバナンス原則
一律かつ硬直的な規制ではなく、リスクベースで性能などを規定して達成に向けた民間の創意工夫を尊重する。データに基づく機動的・柔軟で継続的な改善を可能とする。

原則(3)官民連携原則
公共サービスを提供する際に民間企業のUI(ユーザーインターフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)を活用するなど、ユーザー目線で民間の力を最大化する新たな官民連携を可能とする。

原則(4)相互運用性確保原則
官民で適切にデータを共有し、国・地方公共団体や準公共といった主体・分野間のばらつきを解消し、システム間の相互運用性を確保する。

原則(5)共通基盤利用原則
IDやベースレジストリ(公的情報基盤)などは官民で広くデジタル共通基盤を利用するとともに、調達仕様の標準化・共通化を進める。

*第2回デジタル臨時行政調査会(2021年12月22日)の資料を基に作成

 実際に規制見直しのための一括法案が成立して改革が進むにはまだ時間がかかる。ただし前述した通り、2022年春には見直すべき規制業務の詳細が明らかになる見通しだ。新たなビジネスチャンスにつながるなら、企業はこの原則を踏まえて事業戦略を考えるようになるはずだ。そしてデジタル原則が浸透すれば、規制の枠にとらわれずあらゆる事業活動についてデジタル化を前提に考えるようになっていくのではないか。「デジタル原則」が単なる政府の取り組みを表すキーワードとしてでなく、企業活動に根ざす原則になっていくことを期待したい。

 2018年に経済産業省が公開した「DXレポート」では、「2025年の崖」という衝撃的なキーワードによって、企業のDXへの関心は格段に高まった。企業が抱える古い基幹系システムがDXを進めるうえでの足かせになるという危機感が浮き彫りになり、多くの企業経営者の意識が変わったといえる。

 デジタル原則も、経営者の意識を変えるきっかけになり得る。ただ今回は「崖」のような言葉で危機感をあおるのではない。デジタル技術で何ができるのかが詳細に可視化されることは、企業がDXを進めるためのより実践的な指針となりそうだ。政府には、改革完遂に向けた工程を確実に進めてもらいたい。

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