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 車載半導体における米Qualcomm(クアルコム)の攻勢が止まらない。2021年10月、米国の投資事業組合SSW Partners(SSWパートナーズ)と共に、ADAS(先進運転支援システム)/自動運転に向けたセンサー技術やソフトウエア技術などを有するスウェーデンVeoneer(ヴィオニア)を買収。先に買収に名乗りを上げたカナダMagna International(マグナ・インターナショナル)よりもおよそ9億米ドル高い約45億米ドルを提示して争奪戦に勝利した。21年11月からは、大手自動車メーカーから次々と受注を勝ち取る。同年11月にドイツBMW、22年1月にホンダやスウェーデンVolvo Cars(ボルボ)、フランスのRenault Group(ルノーグループ)、米General Motors(GM)、2月にイタリアFerrari(フェラーリ)との提携を発表し、コックピット、あるいはADAS/自動運転向けでクアルコム製品を採用していく動きを見せた。22年1月の「CES 2022」では、大手企業を中心にリアル展示の縮小や撤退が相次ぐ中、大きな展示ブースを構えただけでなく、クアルコム社長兼CEO(最高経営責任者)のCristiano R. Amon(クリスティアーノ・アモン)氏自らが報道機関向け発表会に登壇し、自動車向け製品群の受注額が130億米ドルに達したと発表するなど、車載事業の好調ぶりをアピールした。

CES 2022のプレスカンファレンスに登壇したアモンCEO
CES 2022のプレスカンファレンスに登壇したアモンCEO
(撮影:日経クロステック)
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 クアルコムが車載分野で攻勢をかける理由は大きく2つある。1つは、同社の主戦場だったモバイル事業で競合が台頭し、取り巻く環境が徐々に厳しくなっていること。同事業は今のところ絶好調だが、台湾MediaTek(メディアテック)が低価格スマートフォン(スマホ)を中心にシェアを拡大。既に、数量ベースのシェアで同社に首位の座を奪われている。香港の調査会社Counterpoint Research(カウンターポイント・リサーチ)の調べによれば、スマホ向け半導体製品(アプリケーションプロセッサーやSoC)の数量ベースのシェアにおいて、21年7~9月期でメディアテックは40%に達した。一方クアルコムは同27%で2位と、13ポイントの大差をつけられた。前年同期では、6ポイント差で、さらに差を広げられた形だ。

 クアルコムが得意とするハイエンドスマホ向けでも逆風が吹く。大手スマホメーカーが、自らハイエンド品用の独自半導体を設計・製造するトレンドが顕著になってきている。例えば米Google(グーグル)は21年10月発売の「Pixel 6」シリーズで独自半導体を初めて搭載。アプリケーションプロセッサーをクアルコム製から自社製に切り替えた。OPPO(オッポ)やXiaomi(小米、シャオミ)といった中国スマホ大手も独自半導体を搭載する動きを加速させている。

 クアルコムが車載半導体に注力するもう1つの理由は、同社が得意とするモバイル向け技術を活用しやすく、かつ市場の成長性が高いからだ。最近の自動車では、移動通信機能に加えて、スマートフォンのようなリッチな映像表示を可能にした車載情報機器を搭載するのが一般的になっている。ADASを標準搭載する車も増えており、スマホで培った画像認識技術が生きる。まさに「走るスマートフォン」化が加速しており、今後もこの傾向は続く。

 それに伴い、自動車に搭載される半導体は増加傾向にある。イスラエルMobileye(モービルアイ)を傘下に持つ米Intel(インテル)のパット・ゲルシンガーCEOは2021年9月、「30年には高級車の部品コストの20%以上を半導体が占める」との予測を披露した。インテルは自動車向け半導体の市場規模が30年ごろに現在の2倍以上となる1150億ドル(約13兆円)に達し、半導体市場の11%を占めると予想している。

 既にクアルコムの自動車向け事業は好調だ。例えば、2021会計年度(20年10月~21年9月期)の車載事業の売上高は9億7500万米ドルで、全体の売り上げの5%に満たないものの、前年度比で約51.4%増と大きく成長した。22年2月に発表した21年10~12月期の決算では、車載事業の売上高は2億5600万米ドルと前年度比で約21%増と、同事業は成長路線に乗る。クアルコムは、21年会計年度で10億米ドル近くになった自動車向け事業の売上高を5年後に35億米ドル、10年後に80億米ドルにするという野心的な目標を掲げる。