米国における電動航空機の取り組みが再び活発になってきた。新型コロナウイルスの影響で大打撃を受けた航空業界だが、「カーボンニュートラル(炭素中立)」などの環境負荷低減を求める声を追い風に、数人乗りの電動垂直離着陸(eVTOL)機にスポットが当たる。21年に入り、米国の大手自動車メーカーが参戦を表明。eVTOL機業界で知られた米新興企業は、開発の進捗ぶりをアピールした。中には大手航空会社から1000億円を超える額の発注を受けた企業もある。ドローン分野で中国に台頭を許したことから、安全保障の観点から米空軍もeVTOL機の実用化を支援する。米連邦航空局(FAA)の型式証明の取得に向けた活動も前進。早ければeVTOL機を利用した商用の移動サービスが24年にも米国で始まる見込みだ。
Uberが研究開発部門を売却
eVTOL機は、従来の航空機に比べて、あたかも自動車のように手軽に乗り降りできることから、「空飛ぶクルマ(Flying Car)」と呼ばれる。主に「UAM(Urban Air Mobility:都市型航空交通)」、すなわち都市部での「エアタクシー」として利用が想定されている。自動車で移動する場合に比べて数分の1の時間で済むことから、都市部の渋滞問題を解決する手段として期待されてきた。加えて、電動化によって、温暖化ガスの削減のほか、燃費向上や構造の簡素化によるメンテナンス負荷の軽減でコスト削減を狙える。パイロット不要の自律飛行と組み合わせれば、ヘリコプターに比べて運賃を大幅に削減できる見込みだ。
こうした利点から、UAM市場は急拡大する可能性を秘めるとして、これまでeVTOL機を開発する新興企業に対して、多額の資金が投じられてきた。これにともない、新興企業の数も増加。eVTOL機業界は一種の「バブル」の様相を呈していた。フランスAirbus(エアバス)や米Boeing(ボーイング)といった大手航空機メーカーもeVTOL機の研究開発に取り組んできた。
ところが新型コロナ禍で20年に入って移動需要が一気に消滅。eVTOL機の新興企業へのこれまでの主要な出資者は、航空業界の大手企業や同企業のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)が多かったこともあり、大きな打撃を受けた。その象徴は、業界の旗振り役だった米Uber Technologies(ウーバーテクノロジーズ)が手塩にかけて育ててきた空飛ぶタクシーの研究開発部門「Elevate」を売却したことだ。配車サービスの業績が急落し、手放すことになった。Uberは「Uber Air」の商用サービスを23年に開始することを目標に掲げており、本来20年は実証試験を開始する、節目の年になるはずだった。