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 米Apple(アップル)がiPhoneの生活必需品化に向けて、さらに一歩を踏み出した。これまでもiCloudなどクラウドサービスを充実させるなどして、iPhoneからAndroid端末に乗り換えにくいような施策を採ってきたが、今回その領域を現実世界(リアルワールド)にまで広げる。その第一歩となるのが、同社が2021年4月20日(現地時間)に発表した紛失防止タグ「AirTag」だ。狙うは世界のすべての人々にiPhoneを持たせる「全人類iPhone所有化」計画である。

 AirTagは、以前から開発が噂されていたもので、ようやく正式に発表された。だが、さまざまな企業が類似製品を手掛けており、競争は激しい。発表の翌日21日には、紛失防止タグを長らく手掛けてきた米Tile(タイル)から、米議会上院の公聴会の場で「プラットフォーマーという優位な立場を利用し、不公平な扱いを受けている」と訴えられた。こうした火種を抱えることは、Appleにも予測できたはず。それにもかかわらず、Appleが同タグにこのタイミングで参入したのはなぜか。その理由を説明する鍵は、同社が普及促進を図っている超広帯域無線通信技術「UWB(Ultra-Wide Band)」にある。従来の紛失防止タグが利用してきた「Bluetooth」に比べて、高精度で測位できるUWBを生かし、Appleは新しい経済圏を構築しようとしている。

「AirTag」
「AirTag」
(出所:Apple)
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 紛失防止タグを含めた、ロケーションサービス市場は成長の真っただ中にある。Bluetoothの仕様策定・普及促進団体「Bluetooth SIG」が21年に発表した市場調査リポートによれば、Bluetooth採用のロケーションサービス用デバイスの出荷台数は、20年の1億1900万個から25年までの5年間で、年率平均32%で増加し、25年に4億8000万個に達するという。このうち、大半を占めるのがBluetoothタグだとする。例えば、「リアルタイム位置測位システム(Real Time Location System:RTLS)」といった企業・産業用途に向けたBluetoothタグと、民生用途のタグの出荷数は21年に1億3600万個になるとみている。これは、21年のBluetooth採用のロケーションサービス用デバイス全体の約8割を占める。

 成長市場だけに、競合がひしめく。その中でAppleの武器になるのは、世界中にあるApple製品を利用した広大な探索網「Find My」ネットワークとUWBという新しい無線技術だ。

 AirTagは、Bluetoothに加えてUWBを採用しており、まずBluetoothを使っておおよその位置を把握する。持ち主から遠く離れたBluetoothの通信圏外の場所にあるタグが存在しても、AirTagのBluetooth信号を第三者のApple製品が検知し、その位置情報を持ち主の端末まで中継する。位置情報の伝達にはBluetoothのメッシュネットワーク機能を利用しているようだ。iPhoneで探索する場合、「探す(Find)」アプリを起動すると、AirTagの現在位置や最後に確認された場所をマップ上で見られる。持ち主はAirTagを「紛失モード」にすると、見つかった場合に通知を受け取ることができる注1)

注1)紛失したAirTagを第三者が見つけた場合、その人がiPhoneやNFC対応機器を軽く当てると、持ち主があらかじめ記録しておいた電話番号といった連絡先が表示される。これは、Apple製品でなくても、NFC対応のAndroid端末を利用している第三者がAirTagを見つけた場合でも、持ち主がそれを知る手段があるということだろう。
「探す」アプリの「持ち物を探す」タブでAirTagを追跡できる
「探す」アプリの「持ち物を探す」タブでAirTagを追跡できる
(出所:Apple)
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