全2695文字
PR

 「『バーチャルプロダクション』でロケやグリーンスクリーンでの撮影は過去のものになる」――。こう豪語するのは、バーチャルプロダクション用スタジオを運営する米Vū Technologies(ビューテクノロジーズ)の共同創業者で社長(President)のJon Davila(ジョン・ダビラ)氏である。

 バーチャルプロダクションとは、仮想空間の背景と実物の被写体(役者や道具など)を同時に撮影し、合成する撮影・制作手法の総称である。中でも利用が増えているのが、「LEDウオール」と呼ばれるような大型LEDディスプレーに、実物と見まがうようなリアルなコンピューターグラフィックス(CG)を表示し、役者や舞台道具とともに撮影する方法だ。大型LEDディスプレーが高精細になったことや、「ゲームエンジン」と呼ばれるゲーム制作ツールを使ってリアルなCGを安価、かつ手軽に制作できるようになったことが、利用を後押ししている。

「NAB 2022」に出展したビューテクノロジーズのブース
「NAB 2022」に出展したビューテクノロジーズのブース
バーチャルプロダクションを体験できる(撮影:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 加えて、新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限などによって現地での撮影が難しくなったことで、スタジオでの撮影が可能で、場所や天候、時刻の制約を受けにくいバーチャルプロダクションの採用が「一気に広がった」(ダビラ氏)。

 バーチャルプロダクションは、コスト削減効果も見込める。基本的に一カ所で撮影できるので場面ごとにロケ地を移動しなくて済む、天候に左右されず予定通りに撮影しやすい、といったことから撮影時間を大幅に短縮できる。撮影時間が短くなる分、役者や制作スタッフの人件費を抑えられる。

 こうした特徴から、バーチャルプロダクションはCMやミュージックビデオといった比較的時間が短いものから、テレビ番組や映画といった長いものまで、幅広い映像作品で利用が進んでいるという。中でも、「予算が少ないインディーズ作品や短時間のCMでの利用が増えている」(ビューテクノロジーズのダビラ氏)。

 バーチャルプロダクション市場は今後、急成長しそうだ。アイルランドの調査会社Research and Markets(リサーチ・アンド・マーケッツ)によれば、バーチャルプロダクションの市場規模は21年に24億米ドル(1米ドル130円換算で3120億円)。その後、年率平均17.6%で成長し、26年に54億米ドル(同7020億円)に達するとみている。