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 2020年に入ってから、AR(Augmented Reality)やVR(Virtual Reality)の分野で米大手IT企業による買収や提携が相次いでいる。例えばAR分野では、2020年3月に米アップル(Apple)がARを活用した屋内ナビを手掛ける英デントリアリティー(Dent Reality)と提携を発表した。米フェイスブック(Facebook)も、次世代のARグラスの表示素子として期待を集めるマイクロLEDディスプレーを開発している英プレッシー(Plessey)と提携。スマートフォンのAR・位置情報ゲーム「Pokémon GO(ポケモンGO)」で知られる米ナイアンティック(Niantic)は、3次元(3D)空間マップ技術を有する米6D.aiを買収した。VR分野では、スポーツの試合や音楽イベントのVR配信を手掛ける新興企業である米ネクストVR(NextVR)をアップルが同年5月に買収している。

 そんなコロナ禍において賑(にぎ)わいを見せているAR/VR業界の現状を、同業界の著名人はどのように見ているのか。AR/VR分野の投資会社「Super Ventures」の設立者で、かつAR/VR関連の大型イベント「AWE USA」(現地時間2020年5月26~29日にオンライン開催)を運営する非営利団体「AugmentedReality.org」の設立者としても知られるOri Inbar氏に話を聞いた。同氏は、アップルに買収されたAR関連技術の米フライバイ メディア(Flyby Media、元Ogmento)の共同設立者としても知られている。本稿ではInbar氏の話と共に、AR/VR業界の現状を3回に分けて紹介する。

Ori Inbar氏
Ori Inbar氏
(写真:AWE USA)
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 Inbar氏によれば、コロナ禍による景気の悪化で、AR/VRのスタートアップ(新興)企業にとって厳しい環境になり、「生き残りをかけた戦いが始まった」(同氏)。一方で、チャンスも広がったという。例えば、AR/VR技術は複数人が共同で実施するリモート作業に向く。「あるAR/VRの新興企業は、これまで提供してきたリモート作業向けサービスを一時的に無償化したことで一気にユーザー数が増えた」(同氏)という。こうした新興企業は、直接利益につながらないものの、利用者がAR/VR技術に何を求めているのか、それを調査するのに絶好の機会だと捉えているという。

 AR/VR空間で共同作業を実施できるツールを手掛ける新興企業のうち、Inbar氏が注目するのが米スペーシャル システムズ(Spatial Systems)である。同社は2020年1月に「シリーズA」の投資として1400万米ドルを得た。これにより、獲得した累計の投資額は2200万米ドルに達したという。2020年2月にはKDDIと、ARを利用した遠隔会議システムの開発に向けて包括的なパートナーシップ契約を結んだ。新型コロナ感染の拡大を契機に、無料プランにかけていた制限を一時的に取り払い、利用を促している。

Spatial Systemsのツール画面
Spatial Systemsのツール画面
(画像:Spatial Systems)
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 もっとも、以前のような対面でのコミュニケーションする要望は多いので、いずれ、従来型のフェイス・ツー・フェイスの会議やイベントが開催されるようになる。だが、この外出制限が実施されている期間中に、リモート作業を快適に実施できるAR/VRツールを見つければ、コロナ禍が収まったとしても、そのツールを使い続けるとみる。その結果、「企業はAR/VRツールに投資するようになるだろう」(Inbar氏)。

 仕事だけでなく、家庭にもAR/VRによる協業ツールが広がるとみている。例えば、家電や家に置く通信機器などは設置や設定が分かりにくい場合がある。だが、以前よりも業者に来てもらうのが困難な状況な上、感染拡大を抑制するためにも、なるべく対面での作業は避けたい。そこで、ユーザーがスマートフォンやARグラスのカメラで対象の機器を撮影し、映像に重ねられたカスタマーセンターからのアドバイスを受けながら、ユーザー自らが作業できる。