全3262文字

 新型コロナウイルスの感染拡大の抑制に向けた外出制限によって、老舗フィットネスジム「ゴールドジム」を運営する米GGI Holdingsが連邦破産法11条を申請するなど、従来型のフィットネス業界が苦境に陥っている。代わりに急成長の兆しを見せるのが、宅内で実施できるフィットネスサービスだ。新興企業の株価上昇や大手企業による新興企業の買収が相次ぎ、米Apple(アップル)のようなIT大手も強化策を打ち出している。健康管理分野全般に目を向けると、フィットネスだけでなく、リラックスなど精神の安定を支援するサービスも好調だ。

 これまでの宅内フィットネスは、スマートフォンアプリが主流で、気軽さがウリだった。こうしたアプリベースのフィットネスサービスに加えて、ジムに通って本格的なフィットネスを行う人々の需要を満たすようなサービスも登場し、注目を集めている。

 例えば、自転車型などのトレーニングマシンの販売と、トレーニングサービスを提供する、米Peloton Interactive(ペロトン・インタラクティブ)。同社の株価は2020年初めから30ドル前後を推移していたものの、3月末から上昇して、7月に入ってから同月15日現在まで、倍の60米ドル前後の高値で推移している。

Pelotonのトレーニングマシン(出典:Peloton)
Pelotonのトレーニングマシン(出典:Peloton)
[画像のクリックで拡大表示]

5億米ドルで買収されたスマートミラーの新興企業

 大手企業による新興企業の買収も盛んだ。例えばカナダのスポーツウエア大手lululemon athletica(ルルレモン・アスレティカ)は2020年6月、フィットネス新興企業の米Mirror(ミラー)を買収することで合意したことを明らかにした。買収額は5億ドル(535億円、1米ドル=107円換算)と、フィットネス分野では高額である。

 ミラーはその名の通り、トレーニングコンテンツ配信にネット接続のスマートミラーを利用するフィットネススタートアップである。大型の鏡には、カメラのほかマイクなどのセンサーが埋め込まれている。アップルの腕時計型端末「Apple Watch」を利用することで心拍の情報も送ることができる。

ミラーのスマートミラーを使ってフィットネスしている様子(出典:ミラー)
ミラーのスマートミラーを使ってフィットネスしている様子(出典:ミラー)
[画像のクリックで拡大表示]

 大型の鏡にはインストラクターと自分の姿が映し出され、指示通りに運動しているかどうかのフィードバックが得られる。オンデマンドのコンテンツで24時間利用できるほか、プロのアスリートによる実際のレッスンも受けられる。スマートミラーの価格は1495米ドルである。支払いは一括か分割を選択できる。基本コンテンツの利用料は月39米ドル。米国では、一般的なジムの料金は1カ月200~300米ドル程度である。1年でみればミラーのサービスの方がやや安いと考えることもできる。1年を超えれば、一気に安くなる。

アプリで利用者の目標を管理する(左)。ミラーのインストラクターやクラスも随時追加している(右)(出典:ミラー)
アプリで利用者の目標を管理する(左)。ミラーのインストラクターやクラスも随時追加している(右)(出典:ミラー)
[画像のクリックで拡大表示]

 屋外やスポーツジムでのスポーツウエアの利用が減る中、比較的高い値付けで買収することを決断したようだ。新型コロナウイルスの感染拡大で、ミラーの契約者や利用頻度は順調に増えているとみられる。買収後もミラーは独立した企業として運営していくという。ルルレモンは以前からミラーに目を付けていた。2019年にミラーへ出資し、瞑想(めいそう)などのコンテンツを共同で開発してきた。スポーツウエア大手のルルレモンにとって、家庭内でのトレーニングウエア着用は有望市場である。ルルレモン CEOのCalvin McDonald(カルビン・マクドナルド)氏は「ミラーはパーソナライズされた家庭内フィットネスの成長を加速させている」と述べた。

 新興企業にとっても、大手の顧客網は魅力的だ。ミラー創業者でCEOのBrynn Putnam(ブリン・プットナム)氏は今回の買収について「ルルレモンの店舗網やeコマースのチャンネルも利用し新しいユーザーを獲得し、ポジションを強めて成長を加速していく」とコメントする。