欧州委員会は2021年9月23日(現地時間)、電子機器の充電ポート(端子、コネクター)をUSBの「Type-C(USB-C)」コネクターに統一する無線機器指令(「Radio Equipment Directive」)の改正案を発表した。欧州議会や欧州理事会の立法手続きを経て採択されれば、採択日から24カ月の移行期間内に充電ポートをType-Cにする必要がある。これにより、消費者は機器のブランドに依存せずに、同じType-C対応の充電器で機器を充電できるようになるという。
対象の機器として想定しているのが、携帯電話機やタブレット端末、カメラ、ヘッドホン、ヘッドセット、ポータブルスピーカー、携帯型ゲーム機である(イヤホンや時計型端末、腕輪型端末などは除く)。中でも、この改正案の影響を大きく受けるのが、「Lightning」コネクターを採用している米Apple(アップル)のスマートフォン「iPhone」だ。同社が新製品の「iPhone 13」シリーズを発売する9月24日の前日にこの改正案を公表したのは、偶然ではないだろう。
充電ポートだけでなく、急速充電技術の統一も提案している。明言していないが、これはUSBの給電仕様「USB Power Delivery(PD)」へ移行を促す措置だろう。Type-CはUSB PDに対応する。大手スマホメーカーや米Qualcomm(クアルコム)のような半導体メーカーが、独自の急速充電技術を提供している。今回の改正案が成立すれば、大電力、ならびに急速充電をUSB PDに一本化する流れになりそうだ。
環境負荷低減と消費者の利便性向上を狙う
欧州委員会がType-Cへの統一を図るのは、充電器や充電ケーブルの無駄を省き、環境負荷低減を図るためである。廃棄された未使用の充電器は毎年1万1000t(トン)になると推定されるという。
加えて、消費者の利便性の低下やコスト増大を抑制する狙いがある。EUでは20年に、約4億2000万台の携帯電話機やその他の携帯機器が販売されたとする。消費者は携帯電話機向け充電器を平均で約3個所有し、そのうち2個を定期的に利用しているという。それにもかかわらず、約38%の消費者が、充電器の互換性の問題で携帯電話機を充電できないということを一度は経験していると説明する。こうした状況は消費者にとって不便なだけでなく、年間で約24億ユーロの充電器コストがかかっていると指摘する。
今回の改正案は、突然出てきたものではなく、かねて欧州委員会が求めていたことである。同委員会は、2009年から携帯電話機といった機器の充電手法(充電ソリューション)を共通化すべきだと指摘してきた。同年に業界による自主的な合意を促した結果、最初の覚書(MOU)が採択され、携帯電話機用の充電ソリューションの数を30から3にまで削減したことにつながったとする。14年にMOUが失効した後、18年に業界が提示した案は、消費者の利便性向上と廃棄物削減の面で、「十分なものではなかった」(同委員会)。そこで、今回の法案につながったとしている。
急速充電技術の統一も、ユーザーの利便性向上に向けたものだ。前述のように、現状ではスマホメーカーや半導体メーカーが独自の急速充電技術を提供している。ところが、互換性がないと充電速度(実際は電流値)が制限されてしまう。Type-C、ならびにUSB PDを利用すれば、充電速度を保証しやすい。
アップルが生んだType-C
名指しこそしていないものの、今回の改正案は、前述したようにアップルのLightningを主なターゲットにしていることは明らかである。そんなアップルも、これまで手をこまぬいたわけではない。そもそも、欧州側の要望に応える形でType-Cの規格策定を主導したのはアップルとされる。実際、Type-CとLightningは類似する特徴が多い。分かりやすいのは、表裏どちらでも挿入できる「リバーシブル」への対応だ。Type-Cの登場前、リバーシブル対応はLightningの代名詞だった。それをUSBに持ち込んだわけだ。
こうした背景から、アップルはノートパソコン「MacBook」シリーズやタブレット端末「iPad」シリーズでType-Cを搭載してきた。MacBookシリーズでは15年という早い段階でType-Cコネクターの採用を始めた。
iPadシリーズもこれまでiPhoneと同じLightningだったが、Type-Cへの置き換えが進んだ。21年9月発売の新しいiPadとiPad miniでType-Cを採用したことで、iPadシリーズすべてでType-Cを採用した。
アップルは、腕時計型端末「Apple Watch」シリーズやiPhoneシリーズの新製品で、充電器(電源アダプター)の同梱(どうこん)を止めつつある。コスト削減という面があるものの、環境負荷低減につながっているのは間違いない。
それにもかかわらず、アップルがiPhoneにType-Cを採用してこなかったのはなぜか。