空飛ぶクルマと呼ばれる、電動垂直離着陸(eVTOL)機を手がけるスタートアップ企業に、淘汰の波が押し寄せている。2022年9月、米Kitty Hawk(キティホーク)は事業を終了するとビジネス向けSNSの「LinkedIn(リンクトイン)」に投稿した。同社は、「自動運転の父」と呼ばれるSebastian Thrun(セバスチャン・スラン)氏が最高経営責任者(CEO)を務め、米Google(グーグル)の創業者の1人であるLarry Page(ラリー・ペイジ)氏が出資したことで知られている。著名人が関わる企業だけに、米国のメディアは相次いで報道した。一見するとセンセーショナルな出来事だが、eVTOL機メーカーを取り巻く環境やキティホークのこれまでの道のりを見れば、自然な流れといえる。
キティホークはかつて、2種類のeVTOL機を開発していた。1人乗りの「Flyer(フライヤー)」と2人乗りの「Cora(コーラ)」である。このうち、Flyerに関しては、かつて購入予約をはじめ、同機の購入者(操縦者)に対する訓練施設をラスベガスに設立していた。2018年夏には同施設を報道機関に公開した。Flyerは「Ultralight」(超軽量動力機)というカテゴリーで、米国連邦航空局(FAA)のレギュレーションをパスするのも、操縦するのもハードルが比較的低いとされ、早期に実用化できるとみていた。ところがその後、Flyerの開発を凍結。代わりに2019年に新たに発表したのが1人乗りの機体「Heaviside(ヘビーサイド)」である。
キティホークはヘビーサイドの発表から間もない2019年12月に米Boeing(ボーイング)と共同出資会社Wisk Aero(ウィスク・アエロ)を設立。Coraの開発や事業化をウィスクに移管し、キティホークはヘビーサイドの開発に絞った。
2020年になると、新型コロナウイルス感染症の影響が航空業界を直撃。eVTOL機を開発する新興企業は苦境に陥ったが、キティホークはその状況を生き残り、2021年から実機を展示会で披露するなど、動きが徐々に活発化していく。米空軍のプロジェクト「Agility Prime」に参画するなど、順調に開発が進んでいるように見えた。