全3305文字
PR

 米Apple(アップル)は「iPhone 11」シリーズに続いて、2020年9月に発売した腕時計型端末「Apple Watch Series 6」にUWB(Ultra-Wide Band)を搭載した。発売直前に開催したオンライン発表会では、その話題に触れることがなかった地味な存在のUWBだが、実はAppleの事業をさらに飛躍させる可能性を秘める。20年10月の発売が予想されている新iPhoneでもUWBを採用する見込みで、Appleが近年注力しているサービス事業や医療・ヘルスケア事業の要となる技術である。

 もっとも現時点でApple自らがUWBの活用シナリオを大いに語るとまでは至っていない。Appleの事業をさらに拡大する可能性を秘めながら、あまり大々的にUWBをアピールしていないのは、ユーザーの利用環境が整っていないからとみられる。そのため、UWB活用のシナリオは、Appleによって段階を経て徐々に明らかにされるだろう。

Apple Watch Series 6
Apple Watch Series 6
(出所:Apple)
[画像のクリックで拡大表示]

Apple期待の無線の革命児

 UWBといえば、高速通信が可能、あるいは高精度な屋内測位が可能といった特徴から、2000年代前半に脚光を浴び、「無線の革命児」とまで呼ばれた無線技術である。当時はもっぱら高速通信を実現するための技術として注目された。ところが無線LANの高速化やキラーアプリケーションの不在などによって、普及には至らず、UWBは2010年代以降、BtoC(消費者向け)用途の表舞台でほとんど見かけなくなった。

 そんなUWBにAppleが期待を寄せるのは、GPS(全地球測位システム)の電波が届かない屋内での高精度な測位・測距に向くからである。UWBの方式はいくつもあり、測位にはインパルス方式(IR:Impulse Radio)を用いる。同方式では短パルスを出力し、そのパルスの伝搬時間から距離を推定する。パルス幅はナノ秒オーダーと短く、利用状況に依存するものの、測距精度は10cm前後まで高められる潜在力を備える。Bluetoothでも、測位や測距は可能だが、UWBの方がより高精度である。測位にかかる時間も短い。

 UWBの高精度な測距・測位に注目し、導入が始まったのはBtoB(企業向け)である。いわゆる「リアルタイム位置測位システム(Real Time Location System:RTLS)」での利用だ。例えば、RTLSでは、人や組み立て中の製品、部品、工具、設備といった対象物に通信タグを取り付け、その3次元位置(XYZ座標)をリアルタイムで検知する。さまざまな無線技術の中でUWBが高精度なRTLSを実現可能で、生産管理や安全管理、物流管理などに利用できることから、生産性の向上につながる。UWBのRTLSを手掛ける英Ubisenseによれば、特に欧米の自動車メーカーが自動車の組み立て工場で積極的に採用してきたという。