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 米Apple(アップル)がiPhone 11シリーズやApple Watch Series 6に搭載したUWB(Ultra Wide Band)によって、高精度な測距・測位が可能になる。前編で紹介した自動車やスマートホームのデジタルキーに加えて、決済の利便性を向上できる。さらにAR(Augmented Reality)でも威力を発揮する。同社が開発中とされるAR用のヘッドマウントディスプレー(HMD)、いわゆるARグラス(通称:「Apple Glass」)にも採用されそうだ。

 UWBの決済応用で利点が分かりやすいのはドライブスルー。コロナ禍を機に、米国では他人との接触機会を極力減らせる外食のドライブスルーを利用する機会が増えた。支払いは感染防止のために現金ではなく、クレジットカードやNFC(近距離無線通信)決済が基本となった。

 だが、クレカのやり取りや、決済端末にスマホをかざすことから、従業員に近づく機会があり、客と従業員、両者が感染するリスクが残る。UWBであれば運転席にいながら、決済可能なので完全な「非接触決済」が可能になる。

NTTドコモが19年12月に見せた、UWBを利用したドライブスルーでの決済デモの様子
NTTドコモが19年12月に見せた、UWBを利用したドライブスルーでの決済デモの様子
UWBの利用で、支払場所からやや離れた位置で決済できる。写真の奥側の白い端末は決済端末側に付ける送受信機。スマホの下側にある黒い物体は外付けした送受信モジュールである。いずれも試作品のため大きい。(撮影:日経クロステック)
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 米国ではクレカに並び、NFCを利用する同社の決済サービス「Apple Pay」が普及しており、多くの店舗で利用可能だ。2019年にはクレカ「Apple Card」の発行を米国で始め、決済手段として浸透しつつある。サードパーティー各社のアプリをダウンロードすることなく、NFCタグを読み込むことでアプリの一部機能を必要なタイミングに素早く利用できる「App Clips」を始めるなど、iPhoneによる決済機会を増やす措置を強化している。そんな同社がUWBによる決済サービスを始める未来は大いにある。 

 決済だけでなく、小売り(リテール)分野全般でも、UWBが広がる可能性がある。店舗やショッピングモールといった屋内測位でのユーザーの動きを細かく把握できるからだ。店やモールでの客の滞在時間や滞在場所、移動経路などをデータとして蓄積できる。店のそばを客が通りかかった場合は、クーポンの配信が可能だ。Bluetoothによるビーコンでも同種のことを実施できるが、UWBの方がビーコンより高精度で、データをきめ細かく集められる。利用環境の状況によるものの、多数の人や物が存在する実環境でも、机1つ分くらいの分解能で屋内測位を実施できるだろう。