自動車産業に大きなデジタル変革の波が押し寄せている。電動化や自動運転、MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)などで先行するシリコンバレー企業に、伝統的な自動車メーカーはどう対抗していけばよいのか。ドイツの高級車メーカー、アウディ(Audi)のデジタル変革担当者が漏らした本音は、日本企業にも共通する悩みだった。
高級車メーカーは大衆車メーカーより一足先に、米国市場でデジタル変革の荒波にもまれている。米テスラ(Tesla)に高級車市場を奪われているのだ。普及モデルの「モデル3」で3万5000ドル(約400万円)から。オプションを付けるとすぐに5万ドルを超えるテスラ車の顧客は、既存の高級車メーカーの顧客と重なる。米メディアの「Forbes」は2018年10月、米国におけるテスラ車の2018年7~9月期の販売台数が独メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)を上回ったと報じた。
アウディが2018年9月中旬に同社初の電気自動車(EV)で、5人乗りの多目的スポーツ車(SUV)である「e-tron(eトロン)」の製品発表会を米サンフランシスコ近郊で開催したのもテスラを意識してのことだ。発表会に登壇した同社のアブラハム・ショット(Abraham Schot)暫定会長は「ここは世界で最も電気自動車が売れている場所だ」と語り、テスラの本社に近い「お膝元」で反撃を宣言した。
アウディも「100%サービスの会社になる」
アウディが直面するデジタル変革は電動化だけではない。「10~15年の長期スパンで見ると、アウディが100%サービスの会社になっている可能性もある」。日本メディアとのインタビューに応じたアウディ技術部門で戦略責任者(Head of Strategy)を務めるトーマス・カムラ(Thomas Kamla)氏は、MaaSの実現も同社にとって大きな課題だと話す。
もっとも、MaaS事業者への転換は容易ではない。高級車メーカーである同社が、大衆車メーカーと同じ価格帯のモビリティーサービスを提供するわけにはいかないからだ。そこでプレミアムモビリティーサービスを提供する方針を掲げるが、カムラ氏は「プレミアムモビリティーサービスがどのようなものか、正直なところ我々もまだ定義できていない」と打ち明けたのだ。
このためアウディは現在、自動車開発に関する哲学を変え、どのようなモビリティーサービスを開発すべきか考えるところからデジタル変革を始めているのだという。「エコシステム(生態系)の視点や、ユースケースの視点で自動車開発、サービス開発を考えるよう発想を改める必要がある」(カムラ氏)。