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 「今後、自動車事業のバリューの30~40%が保険事業になるだろう」――。今からおよそ1年前、2020年7~9月期の決算発表の場で保険事業の重要性をこう語っていた米Tesla(テスラ) CEO(最高経営責任者)のElon Musk(イーロン・マスク)氏。テスラは、そんな同氏の考えを反映した新たな自動車保険を21年10月からテキサス州で始めた。同社の電気自動車(EV)とそのドライバーを対象にしたもので、運転行動を基にして月ごとの保険料を算定するのが特徴だ。テスラがEVの運転支援向けに導入した機能を活用しており、同社らしい保険サービスだといえる。車両販売にとどまらず、保険といったサービスまで総取りを狙いにいく。

 月ごとの保険料の算定は、ドライバーの運転行動を数値化した「安全運転スコア(セーフティースコア)」を基にする。スコアが高いほど安全に運転するドライバーだとみなして保険料を安くし、スコアが低ければ保険料を高くする。既にカリフォルニア州でテスラは保険を提供していたものの、月ごとに保険料を変更するのは今回が初めてである。

 これまで自動車保険といえば、年齢や運転歴、車種、事故歴などを基にした等級で「ほぼ決まっていた」(日本のある保険会社の社員)。そこで実際の運転行動を反映して保険料を算定しようと生まれたのが「テレマティクス保険」だ。⼀部の保険会社は、⾞内に設置する専⽤の装置を貸し出したり、スマートフォンアプリを提供したりして運転⾏動を把握する取り組みを始めている。ただし、「従来の等級で決めた保険料が基本で、割引に利⽤するなど、まだ“おまけ”の範ちゅうから抜け出せていない」(同)のが現状だ。

 テスラの新型保険は、年齢や性別、事故歴といったドライバーの属性情報は利⽤せずに、安全運転スコアだけで保険料を算定する。⾞両の詳細な⾛⾏データにアクセスできる⾃動⾞メーカーならではの⾃動⾞保険といえる。

ドライバーの運転行動を数値化した「安全運転スコア(セーフティースコア)」
ドライバーの運転行動を数値化した「安全運転スコア(セーフティースコア)」
専用アプリで確認できる(出所:アプリ画面をキャプチャーしたもの)
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 テスラが今回のような新型保険を開始できた理由は大きく2つある。1つは、「米国の中で、テキサス州の保険局の規制が緩く、認可を得やすい」(ある保険会社の社員)こと。カリフォルニア州など他の州では、「位置情報などを含む運転行動データは個人情報とみなされて認可を得るのが困難」(同)という。

 もう1つの理由は、運転支援機能「オートパイロット」向けセンサーデータの活用である。同機能では、車載カメラで撮影した映像を基に⾞載コンピューターが検知・判断した結果を利用している。テスラの新型保険はこれを利用する。⾞載端末やスマホを使うこれまでのテレマティクス保険は、内蔵するモーションセンサーで急激な加減速や速度超過などの情報を取得することが多い。この方法では、「取得できる情報が限られて、保険料算定への適用も一部にとどまる」(前出の保険会社の社員)。車載カメラのセンシングデータを活用するテスラの保険の方が情報量という点で勝る。

 その証左は、安全運転スコアの算出に利用する評価項目にある。その項目とは、(1)急ブレーキをかけた頻度を示す「Hard Braking」、(2)急激なハンドル操作をした頻度を示す「Aggressive Turning」、(3)前⽅衝突警告が出た頻度を示す「Forward Collision Warnings」、(4)前⽅⾞両と⼗分な⾞間距離を取らなかった頻度を示す「Unsafe Following」、(5)ハンドルに手をかけていないとみなされて、オートパイロットが解除された回数を示す「Forced Autopilot Disengagements」だ。このうち、(3)と(4)が「車載カメラのデータを利用しないと実現するのが難しい項目。実にテスラらしい」(テスラ車に詳しいある日本の自動車メーカーの社員)と評価する。