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 米Apple(アップル)は2021年10月、パソコン「Mac」向け独自プロセッサー「M1」の上位版に相当する「M1 Pro」と「M1 Max」を発表。両プロセッサーを採用した14型と16型の新しい「MacBook Pro」の販売を始めた。同社はM1 ProやM1 Maxをどのような狙いで開発し、新型MacBook Proに採用したのか。アップルで半導体の開発を担当するTim Millet氏(Vice President of Platform Architecture)と、MacとiPadの製品担当であるTom Boger氏(Vice President of Mac and iPad Product Marketing)に話を聞いた。両氏からの話を通じて見えてきたのは、ユーザー体験を重視する姿勢とシンプルさを突き詰める同社の哲学だった。(聞き手は根津 禎=シリコンバレー支局)

アップルは2021年10月に「M1 Pro」と「M1 Max」を発表した
アップルは2021年10月に「M1 Pro」と「M1 Max」を発表した
(出所:アップル)
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14型と16型の新しいMacBook Pro
14型と16型の新しいMacBook Pro
(出所:アップル)
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 そもそもアップルが独自プロセッサーの開発に乗り出したきっかけ。それは、故Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏が「本当に実現したいチップ(半導体部品)や製品を作りたかったから」(Millet氏)である。最初の独自プロセッサーはiPhone向けであり、その後、iPad、Apple Watch向けと範囲を拡大していった。そして2020年6月、Mac向けプロセッサーを約2年かけて独自の「Apple Silicon」に置き換えていくと宣言。その半年後の同年11月に第1弾プロセッサー「M1」を発表し、「MacBook Air」と13型「MacBook Pro」といったノート型2機種と、小型デスクトップパソコン「Mac mini」の計3機種に採用した。その後、21年4月に24型ディスプレーを備える「iMac」と「iPad Pro」にM1を搭載し、パソコンだけでなく、タブレット端末にまで広げた。

 アップルが独自プロセッサー開発する上で重視している点をまとめると、大きく4つになる。第1に、システム側、つまり製品側のリクエストに合致したものを作ることである。顧客視点のユースケースを基に、製品の性能や価格帯などを定め、そこからブレークダウンして独自プロセッサーの仕様を決めて開発する。その際、「システムチームだけでなく、製品マーケティングチームとも協力している」(Boger氏)という。こうして過不足のないプロセッサーを実現する。まさにそれは、無駄をそぎ落とし、限りなくシンプルにして使いやすくするアップルの哲学に通じる。こうした開発体制を構築できるのは、アップルがハードウエアからソフトウエア、製品、サービス、販売までを一貫して自社で取り組んでいるからである。

 今回のM1 ProとM1 Maxでは、プロユース向けにCPUやGPU、メモリーなどといった基本性能をM1に比べて向上させている。とりわけ強化したのが、GPUとメモリーだ。MacBook Proのユーザーは、映像制作や音楽制作の分野におけるプロが多いとされる。特に映像制作の場合、GPUやメモリーへの性能要求は高い。だが、M1ではメモリー容量は最大16Gバイトにとどまり、8Kのような大容量の映像の編集や高品質なCG(コンピューターグラフィックス)の制作などでは、まだ足りないとの声が挙がっていた。そこで、CPUやGPUなどで共有して利用する「Unified Memory Architecture(UMA、ユニファイドメモリアーキテクチャー)」を踏襲しつつ、M1 Proでは最大32Gバイト、M1 Maxでは同64Gバイトのメモリーを混載できるようにした。

左から、M1、M1 Pro、M1 Max
左から、M1、M1 Pro、M1 Max
(出所:アップル)
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 容量を増やしただけでなく、メモリーの帯域幅も広げた。M1 Proで200Gバイト/秒、M1 Maxで400Gバイト/秒で、それぞれM1の約3倍、約6倍である。M1 Proに混載するメモリーのインターフェースでは、バス幅256ビットの「LPDDR5」を、M1 Maxでは同512ビットのLPDDR5を採用する。

 GPUに関しては、M1 Proでは最大16コアのGPUを、M1 Maxでは最大32コアのGPUを搭載する。16コアの場合、演算処理性能は5.2T(テラ)FLOPS(フロップス)、32コアの場合は同10.4TFLOPSに達する。GPUコアの数が最大8だったM1に比べて、それぞれ2倍と4倍の値である。

 メモリー帯域幅の拡大やGPUの性能向上などによって、3次元コンピューターグラフィックス(3D CG)のレンダリングといったグラフィックス関係の処理性能を大幅に向上させた。16型MacBook Proの場合、米AMDのGPU「Radeon Pro 5600M」を採用した前モデルに比べて、M1 Pro採用品で約2.5倍、M1 Max採用品で約4倍高速だとする。