クラウドサービス大手の米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)が例年12月ごろに開催する年次イベント「AWS re:Invent」。今年(2020年)の基調講演に、超音速旅客機(SST)を開発中の米国の新興企業Boom Technology(ブーム・テクノロジー)創業者でCEOのBlake Scholl氏がゲストとして登壇した。AWSの仮想マシンやストレージなどをフル活用して、SSTの研究開発を急ピッチで進めていることをアピール。さらに米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)が主導する「カーボンニュートラル(炭素中立)」の枠組みにも参画を表明した。約17年前の「コンコルド」引退で途絶えた超音速旅客機を、現在の先端技術や環境負荷低減技術でよみがえらせようとしているBoomの活動を象徴する出来事だといえる。
Boomは14年創業で、エレクトロニクスやIT、航空といった分野などの先端技術を駆使し、全長約200フィートで乗客65人以上を乗せてマッハ2.2で飛行するSST「Overture」を開発中である。実現できれば、例えば東京とシアトルのフライト時間を現在の約8時間30分から約4時間30分に短縮できるという。
その前段階に相当する、全長71フィートの1人乗り小型試験機「XB-1」を20年10月にロールアウト(工場から機体を搬出して公開)した。21年中に超音速での飛行試験を予定しているなど、業界で先を行く。コンコルドではかなわなかった、収益性の高いSSTやビジネスモデルを実現できる潜在性を秘めることから、航空業界のみならず、著名な投資家から注目を集めている。
Boomが狙うのは、コンコルドが造られたおよそ50~60年前の技術ではなし得なかった、低燃費、かつ騒音が小さい安全な超音速旅客機である。先端技術を駆使することで、その目標を達成できるとみている。例えば、機体に炭素繊維強化樹脂(CFRP)といった炭素繊維複合材料を多用する。「アルミニウムやチタンなどの金属をわずかに利用するが大半は炭素繊維複合材料」(Scholl氏)だという。
コンコルドで利用されたアルミニウム(Al)合金に比べて、炭素繊維複合材料は軽量で、形状自由度が高く、高効率な機体形状を実現しやすい。つまり、燃費向上につながる。耐熱性が高く、超音速飛行時の摩擦で生じる温度変化に伴う膨張・収縮に十分耐えられるという。加えて、大型部品の成形も可能とする。さらに、形状自由度が高いことから、騒音の原因となる「ソニックブーム」を抑制する機体の形状や構成にしやすいともいう。