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 お台場海浜公園(東京・港)に面する東京湾の入り江の水質が懸念されている。この場所が2020年東京五輪・パラリンピックでトライアスロンやマラソンスイミングの競技会場となるためだ。2019年8月16日午後に実施した水質検査では大腸菌の数値が国際トライアスロン連合が定める基準値の2倍を超えた。テスト大会を兼ねた翌17日のパラトライアスロンワールドカップでは、水質悪化を理由にスイムを中止している。

水質悪化でスイムが中止になったパラトライアスロンW杯のコース=2019年8月17日、東京・お台場海浜公園(写真:共同通信社)
水質悪化でスイムが中止になったパラトライアスロンW杯のコース=2019年8月17日、東京・お台場海浜公園(写真:共同通信社)
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 お台場の海が舞台となる競技の天敵は予期せぬ豪雨だ。首都圏の古い下水管は雨水管との合流式になっている。「豪雨で雨と下水が混ざると下水処理の能力を超え、生活排水が東京湾に放出される」と、都オリンピック・パラリンピック準備局の矢嶋浩一・競技渉外担当課長は説明する。都や東京2020組織委員会は、ポリエステル製の「水中スクリーン」を海中に垂らして競技コースの水質安定を図ったが、大雨の影響で汚れた海水の流入を防げなかった。

 都と組織委員会は東京五輪・パラリンピックの開催期間を想定して、18年にお台場に1重と3重の水中スクリーンを設置して水質検査を行った。3重では、海底に固定して膜を浮かす自立式スクリーン1枚を挟むように、海面から水中に膜を垂らす垂下式スクリーンを2枚設置した。検査の結果、1重スクリーン内の海水は調査期間のうち数日で競技団体が求める基準値を超えた。その一方で、3重の場合は全期間で基準の範囲内に収まった。

東京都や東京2020組織委員会が考える水中スクリーンの設置方法。五輪では3重のスクリーンでコース全体を覆う予定だ(資料:東京都)
東京都や東京2020組織委員会が考える水中スクリーンの設置方法。五輪では3重のスクリーンでコース全体を覆う予定だ(資料:東京都)
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 1重の水中スクリーンでも大腸菌を大幅に低減させる効果が見られたとして、都と組織委員会は競技団体と協議してテスト大会では1重を採用した。競技コースに設置したのは垂下式で海底に固定しないタイプのもの。スクリーンの長さは3mだった。矢嶋課長は、「五輪本番では海水を安定させる効果の高い3重を採用する」と説明する。

東京都と東京2020組織委員会が2018年に実施したお台場海浜公園の水中スクリーン。3重に設置したスクリーン内の水質は大会の基準を満たし、大腸菌類の抑制効果が確認できたという(写真:東京都)
東京都と東京2020組織委員会が2018年に実施したお台場海浜公園の水中スクリーン。3重に設置したスクリーン内の水質は大会の基準を満たし、大腸菌類の抑制効果が確認できたという(写真:東京都)
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 しかし、水中スクリーンの活用方法については都の中でも部局によって認識の違いがあるようだ。都港湾局港湾整備部で環境対策を担当する羽田昭広課長は、「水中スクリーンは閉鎖水域で人が泳げる水質にするための設備ではない」と指摘する。本来は海洋土木工事で拡散する土砂などのかくはんを防ぐ目的で設置する汚濁防止膜だという。

 実証実験で採用された水中スクリーンを製造する太陽工業(大阪市)の高田敬三・資材事業統括本部部長は、「微粒子を遮る効果は実証したが細菌類の低減効果は想定していない」と話す。水中スクリーンで囲われた水域は潮の流れなどで外から海水が流入する。汚物などはスクリーンがせき止めるが細菌類に対する効果は未知数だ。風雨を受けた海面で波が立てば汚れた海水がスクリーンを乗り越えて競技コースに入る可能性もある。

 テスト大会では、選手から水質を懸念する声が上がっている。18年の実証実験だけで「細菌類の低減効果が十分に確認された」と判断するのはやや早計と言える。