リニア中央新幹線の南アルプストンネル静岡工区が、大井川の流量減少への懸念などで本格着工できずにいる問題で、打開策として国土交通省が設置した有識者会議が2020年4月27日に初会合を開いた。事業者のJR東海が唱える流量確保策に対し、根拠となるデータの不足を指摘する委員が相次ぐなど、波乱含みの幕開けとなった。
地元自治体の静岡県は、JR東海のデータ不足などを理由に着工への同意を拒否している。両者を納得させる結論を会議から引き出せるか、調整役の国交省の手腕が問われる。
山梨、静岡、長野の3県にまたがる南アルプストンネルの総延長は25km。中央に位置する静岡工区は、施工者が17年に大成建設・佐藤工業JVに決まったものの、本格着工に至っていない。交差する大井川上流でトンネル掘削に伴う流量減少が見込まれることが主な原因だ。JR東海の提案したトンネル内の湧水を導水路トンネルで川に戻す対策の妥当性などを、静岡県が認めていない。
流量問題以外でも対立深まる
県は静岡工区の施工に伴うJR東海の環境保全策について、学識者を交えて幅広く検討するため、18年11月に県中央新幹線環境保全連絡会議に「地質構造・水資源」と「生物多様性」の2つの専門部会を設置した。これらの部会でJR東海に対し、大井川の流量やトンネル内の湧水の他、大井川中下流域の地下水に及ぶ影響や掘削時の発生土への対策、現場周辺の自然の生物多様性など計47項目にわたって説明責任を果たすよう求めている。
県は20年4月13日、この数年間にわたるJR東海の対応を「現状を示すデータの不足や、検討が不十分な箇所などが見受けられる」と評して、着工を認められない責任は同社にあると指摘した。