全4663文字
PR

 コロナ禍の建設産業はどうなるか、また都市はどう変貌を遂げるか――。書籍「シン・ニホン」で日本の行く先を示した慶応義塾大学教授の安宅和人氏に、「withコロナの都市像」について語ってもらった。(インタビューは2020年5月15日にオンラインで実施した。聞き手は真鍋 政彦=日経クロステック/日経コンストラクション)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は多くの業界に影響を及ぼしています。

 小売りおよび飲食、リゾート、交通機関、トランスポーテーション(運送)にダメージの多くが集中しました。建設・土木業界も現場の中断など実に大変だと思います。ただ、長期的な視点に立つと、この時代に即した空間の刷新に伴い、大きな需要の波が来る可能性が高く、むしろそちらに備える必要があるのではないかと見ています。

安宅 和人(あたか・かずと)氏
安宅 和人(あたか・かずと)氏
慶応義塾大学 環境情報学部教授、ヤフーCSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー) (写真:本人提供)
[画像のクリックで拡大表示]

 交通については感染が拡大する前の「Before(ビフォー)コロナ」状態に完全に戻ることは、しばらくないのではと思います。先に自粛を解除した中国を見ても、飛行機の乗客は自粛前の4分の1程度まで一瞬で戻りましたが、やはり「密な空間でリスクが高すぎる」ということか、軽快な回復には程遠い状況です。新幹線や通勤バスも同じで、満員状態での移動というのはそう簡単に戻ってくるとは考えにくい。こちらは中長期的には座席配置を見直した上、値上げするしか答えはない可能性が高いと思われます。

 飲食・リゾートについては特に都市部の場合は、空間そのものの再設計が必要になる可能性が高い。肩がぶつかり合うような顧客密度を前提に造られた飲食店、換気の悪い奥まった所にあるお店は、どうしても経営が厳しくなるでしょう。私は開放的(オープン)×疎(スパース)に人間の活動空間を刷新する方向、つまり開疎化に向かうべきだという見解です。空気を十分に入れ替えできて、人同士の間隔が十分に取れるような空間へのアップデートは、巨大な需要になるでしょう。これは20世紀前半に、ル・コルビュジエなどがけん引したビクトリア様式からモダニズム建築への転換の背後にあったドライブとかなり共通しています。

都市化(左)と開疎化(右)のイメージ(資料:安宅 和人)
都市化(左)と開疎化(右)のイメージ(資料:安宅 和人)
[画像のクリックで拡大表示]

建設業界の腕の見せどころです。

 ですね。飲食空間だけでなくオフィス空間もグローバルスタンダードが大きく変わる可能性が高い。

 日本の企業や官公庁は机を寄せ集めた「島形」のレイアウトです。密閉空間で密度高く人が座る、「密密」そのものの空間で、withコロナの状況下では衛生的に受け入れがたいものです。このレイアウトは日本の職場では普通ですが、欧米では2~6人のブースや半個室(キュービクル)などのもっと疎なオフィス状況が基本です。とはいえ、必ずしも開放性、通気性がいいわけではない「密疎」な状況なので、開放性をうまく上げる必要が出てきます。

 「密密」のオフィスが基本になっている日本は、欧米以上にこれからオフィス空間を開疎にせざるを得なくなるでしょう。ビフォーコロナの発想で造られた「窓のない都心のオフィスビル」も、リノベーションの対象になる時代に入ると考えます。

 オフィスでソーシャルディスタンスを守ろうとすると、欧州や米国の試算では、コロナ前の35%ぐらいに人を減らす必要があると試算されています。日本の場合、欧米よりも人を詰め込んでオフィスをデザインしてきたため、多くの職場で恐らくもっと減らさなければならないでしょう。そうなると、自粛解除後であっても全員出社は厳しく、オフィス空間は都心以外の分散的なものも含め、増やさざるを得なくなる、また職住近接というより職住一体型の勤務状態の人が増えていくでしょう。

 これに伴ってオフィス空間のレンタル費用も変わってくると思います。一旦、オルタナティブとしての開疎的なオフィス空間が生まれ始めると、開疎化できないオフィスビルは生き残れなくなると考えられます。下克上の大きなチャンスであり、既存の事業者にとっては大きな脅威とも考えられます。