全3300文字
PR

 リニア中央新幹線の未着工問題で、静岡県の川勝平太知事が国土交通省の藤田耕三事務次官に、同県を迂回するルート変更を提案した。藤田次官は「議論する段階にない」と否定。トンネル工事に伴う大井川の減水問題などを検討する同省の有識者会議の結論を待つよう川勝知事に促したが、知事は主張を譲らなかった。

 川勝知事と藤田次官は2020年7月10日、静岡県庁で約1時間にわたって会談。トンネル坑口の整備など準備工事への着手の是非について話し合った。

リニア中央新幹線は2027年の開業だけでなく、現行計画の存続すら危ぶまれる事態に(写真:日経アーキテクチュア)
リニア中央新幹線は2027年の開業だけでなく、現行計画の存続すら危ぶまれる事態に(写真:日経アーキテクチュア)
[画像のクリックで拡大表示]

 準備工事を巡っては、JR東海の金子慎社長が「6月中に着手できなければ、27年開業が遅れる可能性がある」と発言。6月26日に川勝知事と会談し、早期着手への理解を求めた。川勝知事は明言を避けたが、会談後に「準備工事はトンネル本体工事と一体」として容認しない考えを示した。

 川勝知事は会談前、流域市町と対応を協議。本体工事に関する国交省の有識者会議の結論が出る前に、本体工事と一体と見なせる準備工事を認めるべきではないとの合意に達していた。

 自然環境の保全とリニアの早期開業の両立を目指す藤田次官は、川勝知事に再考を要望。(1)坑口整備などは本体工事の手前の段階で、水資源など環境への影響が小さい(2)有識者会議の検討が終わるまで本体工事に着手しないようJR東海に確約させる(3)有識者会議の結論次第では坑口の場所も含め整備計画を変更するようJR東海に確約させる――などと説明。準備工事への着手を認めるよう求めた。

 川勝知事は、坑口整備などを本体工事と一体と見なす流域市町との合意を理由に、準備工事の早期着手を認めない考えを改めて強調した。さらに、大雨による作業用道路の崩落などを引き合いに、作業員の安全が十分に確保されていない中で、準備工事に着手するのは現実的ではないと指摘した。

 藤田次官は「安全は大事だが、そのことと静岡県がJR東海に求めている自然環境保全条例の協定締結手続きとどのような関係があるのか」と質問。坑口整備などは自然環境への影響という観点では、JR東海が進めてきた作業員宿舎などの整備と同様の性格の工事だと考えられる。静岡県がこれまで認めてきた宿舎整備などと同じ扱いができないかと尋ねた。

 静岡県の自然環境保全条例では、開発面積が5ha以上の場合、事業者に対して県と協定を締結するよう求めている。JR東海が進めてきた宿舎整備などについては、これまで開発面積が5haを下回っていたため、静岡県は同社と協定を結ばずに工事を認めてきた。

 川勝知事は藤田次官の発言を「合理的な判断だ」と述べる一方、現場では作業員の安全が確保されていないとみて、「空論」と切り捨てた。しかし、藤田次官は「厳しい状況の中で安全を確保しながら施工することは可能だ。宿舎の工事のときも同じ条件だった」と反論。川勝知事が「工事を安全にやるという言葉と実態のギャップが大きい」と批判すると、藤田次官は「知事の権限として安全性を理由に工事を止める考えか」と詰め寄った。すると、川勝知事は「まあ、ともかく」と正面からの回答を避けた。

 さらに、藤田次官は「具体的にどうすればいいのか。どの法律に基づいて、どのような基準があるのか議論しないと、民間の事業主体は判断できない。具体的にこの基準をクリアすれば、これができると明示しなければ、経済活動は成り立たない」と主張。坑口整備などの具体的な問題や懸念を挙げるよう求めた。

 川勝知事は国交省の有識者会議で検討を要望した水資源など47項目だと回答。藤田次官が「それは本体工事の話だ」と指摘すると、川勝知事は「坑口整備などは本体工事に関わるもので、47項目に入っている」と切り返した。