今や誰もが持ち歩くスマートフォン。それが、地震時に加速度計となって早期にアラームを発令する――。この壮大な構想の実現に向けて開発に挑むのが、米Google(グーグル)だ。実は日本でも同様の構想が進む。「インテリジェント地震波動解析」はその1つ。スマホ内蔵型だけでなく、建物やガスメーターに設置した加速度計などで得られるビッグデータを駆使して、地震動の計測や分析の高度化を目指す。プロジェクトメンバーの東京大学地震研究所の長尾大道准教授に、スマホの地震計としての展望や課題を聞いた。
グーグルが開発を進める「Android Earthquake Alerts System」とは、地震発生時に多数のスマホで計測した加速度データをリアルタイムで専用のサーバーに送信・分析して、地震の初期微動(P波)を検知する。主要動(S波)の到達よりも先に、利用者へ警戒を促すアラームを発する仕組みだ。エレベーターと連動させて地震時に緊急停止させるなど、防災にも役立てる計画だという。
グーグルの目指すシステムの基本的な原理は、米国地質調査所(USGS)などが構築した地震早期警戒システムの「ShakeAlert」や、日本の気象庁が運用する緊急地震速報と変わらない。ただし、広い国土に多数の地震計を分散して配置する従来の方法は、コスト的な問題から設置できる数に限界があった。例えば日本の気象庁の場合、速報に用いる地震計や震度計は全国に約1690カ所。地域によっては地震計同士が数十キロメートル離れているなど、計測の「空白地帯」が存在する。
国内で普及台数が数千万に上るスマホを地震計として利用できれば、P波検知のデータ数は飛躍的に増える。使い方次第では、速報の正確性の向上や地震動の分析の高度化につながるわけだ。
日本でもスマホを地震計として使う構想はある。「次世代地震計測と最先端ベイズ統計学との融合によるインテリジェント地震波動解析(iSeisBayes、研究代表者:平田直・東京大学地震研究所名誉教授)」だ。プロジェクトメンバーの長尾准教授は、次のように話す。「一般に、人が歩く際の振動数は2Hz(ヘルツ)程度。こうしたノイズを取り除いて、スマートフォンで計測した加速度データから地震による振動だけを取り出すのは不可能ではない」
ただし、こう続ける。「スマートフォンに内蔵している加速度センサーは地震計に比べて精度が低い。それを圧倒的なデータ量でカバーする必要がある」(長尾准教授)。大量のデータを高速で処理するためには、統計学や機械学習、数値シミュレーションなどを駆使した新たな手法を開発しなければならない。