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 台湾の国家運輸安全調査委員会(TTSB)は、2019年10月に崩落した長さ140mのアーチ橋の事故調査報告書をまとめた。雨水や塩分が桁内に流入してケーブル端部の素線やアンカーヘッドが腐食していたと指摘。点検体制の不備も一因となったと結論付けた。20年11月25日に公表した。

港内に落下した南方澳跨港大橋(写真:台湾国家運輸安全調査委員会)
港内に落下した南方澳跨港大橋(写真:台湾国家運輸安全調査委員会)
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回収した箱桁側のケーブル端部と、より線を束ねるアンカーヘッドの腐食状況。陸側のケーブルから順に1~13の番号が振ってある。7~13のアンカーヘッドの腐食が特に激しい。最初に11番のケーブルがアンカーヘッド付近で破断して落橋につながったとみられる(写真:台湾国家運輸安全調査委員会)
回収した箱桁側のケーブル端部と、より線を束ねるアンカーヘッドの腐食状況。陸側のケーブルから順に1~13の番号が振ってある。7~13のアンカーヘッドの腐食が特に激しい。最初に11番のケーブルがアンカーヘッド付近で破断して落橋につながったとみられる(写真:台湾国家運輸安全調査委員会)
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 事故があったのは、台湾北東部の宜蘭(ぎらん)県の港に架かる「南方澳跨港大橋(なんぽうおうここうだいきょう)」だ。単弦の鋼製アーチ形式で、1面13本のケーブルで鋼床版箱桁を吊っていた。現地時間の10月1日午前9時半ごろ、タンクローリーの通行中にケーブルが次々と破断。港内に停泊した漁船に落下し、巻き込まれた6人が死亡した。

 ケーブル1本は、亜鉛メッキを施した7本の素線から成る「より線」を、13本または17本束ねている。その上から高密度ポリエチレン(HDPE)のカバーをかぶせていた。より線の両端部を鋼製のアンカーヘッドに引き込んで固定し、アーチリブや箱桁内に定着する構造だ。現地企業が設計・施工を担当し、1998年に完成した。

ケーブル端部の構造例。本文では報告書に合わせて、図中のアンカレッジをアンカーヘッドと記載する。台湾国家運輸安全調査委員会の資料に日経クロステックが追記
ケーブル端部の構造例。本文では報告書に合わせて、図中のアンカレッジをアンカーヘッドと記載する。台湾国家運輸安全調査委員会の資料に日経クロステックが追記
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南方澳跨港大橋の構造。代表的な部材について日本語名称を併記した。台湾国家運輸安全調査委員会の資料に日経クロステックが追記
南方澳跨港大橋の構造。代表的な部材について日本語名称を併記した。台湾国家運輸安全調査委員会の資料に日経クロステックが追記
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 TTSBなどは事故後、調査チームを結成して港内から桁やケーブルを回収。残材の強度試験や書類の確認を進め、30項目に及ぶ調査結果をまとめた。その冒頭で挙げたのが、ケーブルの腐食だ。箱桁とケーブルの境界部の防水シール材が経年劣化などで硬化し、ひび割れが発生。雨水が桁内に染み込んでたまり、素線やアンカーヘッドがさびたと指摘している。海に近いことから、塩分や湿度の高さも影響したとみられる。

 調査結果によると、特に、最初に破断したケーブルを含む港側(東側)の4本で、箱桁側の端部付近の腐食が激しかった。崩落の前から、数本のより線が破断。ケーブルの有効断面積は当初の22~27%しか残っていなかった。強度が低下し、タンクローリーの荷重に耐えられなかった。一方、腐食が比較的軽微だった陸側(西側)では、アーチリブ側のアンカーヘッドが割れてケーブルが脱落していた。

箱桁側のケーブル定着構造。赤い部分が、HDPEで被覆されたケーブル。中央分離帯から飛び出た金属製の箱の中を通って桁内に引き込んで定着していた。代表的な部材について日本語名称を併記した。台湾国家運輸安全調査委員会の資料に日経クロステックが追記
箱桁側のケーブル定着構造。赤い部分が、HDPEで被覆されたケーブル。中央分離帯から飛び出た金属製の箱の中を通って桁内に引き込んで定着していた。代表的な部材について日本語名称を併記した。台湾国家運輸安全調査委員会の資料に日経クロステックが追記
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中央分離帯から飛び出た金属製の箱とケーブルの境界。ここから桁内に雨水が入ったようだ(写真:台湾国家運輸安全調査委員会)
中央分離帯から飛び出た金属製の箱とケーブルの境界。ここから桁内に雨水が入ったようだ(写真:台湾国家運輸安全調査委員会)
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アーチリブ側と桁側の定着構造(資料:台湾国家運輸安全調査委員会)
アーチリブ側と桁側の定着構造(資料:台湾国家運輸安全調査委員会)
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