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 道路トンネルの中で地元産の食材を使ったディナーを食べ、橋上のキャンピングカーに泊まる――。開通前の自動車専用道路に1泊2日で滞在するという日本初のインフラツーリズムの取り組みが、SNS(交流サイト)などで多くの反響を呼んでいる。大分県中津市の中津日田道路で実施する、「耶馬渓トンネルホテル」プロジェクトだ。

トンネル内には巨大な机を特設。ディナーを楽しむ空間となる(資料:耶馬渓トンネルホテル実行委員会)
トンネル内には巨大な机を特設。ディナーを楽しむ空間となる(資料:耶馬渓トンネルホテル実行委員会)
耶馬渓の位置図と、中津日田道路のうちイベントを実施する耶馬渓道路区間(写真:大分県)
耶馬渓の位置図と、中津日田道路のうちイベントを実施する耶馬渓道路区間(写真:大分県)
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 「耶馬渓は江戸時代から観光地として有名だ。ただ交通の便が良くなるにつれ、次第に泊まる人が減っていった。美しい星を見ることなく帰ってしまうのがとてももったいない。かねて長時間滞在してほしいと思っていた」。こう話すのは、今回のイベントを統括するテンポラリ耶馬渓の福田まや代表だ。デザイン事務所「星庭」の代表でもある。

 中津日田道路のうち、2021年2月28日に開通する耶馬渓道路の一部を利用する。県内の道路トンネルとしては最長となる「鹿熊ふるさとトンネル」とそこに隣接する橋だ。

 イベント開催日は21年2月11~13日。3日のうち2日を選んで、1泊2日で参加する。宿泊などに利用する場所以外では工事が残っており、昼間は工事車両が通る。そのため、滞在できる時間は工事をしていない午後5時30分から翌午前9時までとなる。

 実質15時間ほどの滞在時間だが、五感を刺激する密な体験が待ち構えている。トンネル内にはFumihiko Sano Studioの佐野文彦代表が設計した耶馬渓産の古木を使ったテーブルを設置。そこで地元の食材を使ったディナーが振る舞われる。

ディナーのイメージ。大分県臼杵市のケータリングサービス会社がディナーを提供する(写真:USAMI/Studio Vamos 野口修二)
ディナーのイメージ。大分県臼杵市のケータリングサービス会社がディナーを提供する(写真:USAMI/Studio Vamos 野口修二)
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 ディナー後はプロのバーテンダーとDJがもてなす。「トンネル内の反響を生かして曲を選んでもらう」。福田代表はこう話す。

 宿泊場所は、トンネル坑口に隣接する橋上だ。「とても奇麗に見える星は、耶馬渓の魅力の1つ」と福田代表は語る。その日は橋の上のキャンピングカーで就寝。翌朝は地元のカフェで焙煎(ばいせん)したコーヒーや地元産の小麦で作ったパンなどを朝食で味わえる。

 企画の始まりは20年夏。割と最近だ。国内初の取り組みを実現するために、「関係機関との調整などが、とても大変だった」と福田代表は振り返る。次ページからは、企画実現までの苦労などについて語ってもらった、福田代表のインタビューを掲載する。

開通前の鹿熊ふるさとトンネル(写真:耶馬渓トンネルホテル実行委員会)
開通前の鹿熊ふるさとトンネル(写真:耶馬渓トンネルホテル実行委員会)
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