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 米Apple(アップル)が本社を構えるクパチーノの程近く。シリコンバレーの山中に広がるセメント会社の採石場で、無人のアーティキュレートダンプトラックが、ゆっくりと動き出した。機体に躍るのは「OBAYASHI」と「SafeAI」のロゴ。大林組と米スタートアップ企業のSafeAI(セーフエーアイ)による、重機の自律化に向けた挑戦が、2021年3月中旬に本格始動した。社内の懐疑的な見方を払拭するだけの成果をたたき出せるか。

米シリコンバレーの採石場を自律走行するアーティキュレートダンプトラック(写真:SafeAI)
米シリコンバレーの採石場を自律走行するアーティキュレートダンプトラック(写真:SafeAI)
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 アーティキュレートダンプトラックとは、中折れ式の車体構造を持つダンプトラックのこと。悪路に強く、広大な造成工事の現場で土砂を運搬する際などに活躍する。大林組は、市販のダンプトラック(最大積載量約24t)を購入し、AI(人工知能)で重機を自律化する技術を持つSafeAIに提供。SafeAIは、このダンプトラックにセンサーなどの装置を「後付け」し、独自のソフトウエアで自律化を施した。

 この日、採石場に持ち込んだ自律ダンプトラックは、舗装されていないむき出しの道路を順調に走り抜けて、無事に目的地までたどり着いた。大林組がダンプトラックを提供してからわずか3カ月。コロナ禍の不自由な開発環境ながら、設定した目的地まで悪路を走破するという最初の関門をクリアした。

 SafeAIとの協業を担当するのは、大林組が21年4月に設置したビジネスイノベーション推進室のメンバーだ。シリコンバレーに駐在している同室の佐藤寛人部長は、「土砂を運んでは降ろすという繰り返し作業を機械に任せることができれば、生産性は大きく向上する。人が事故に遭う確率も減らせる」と自律化の効果に期待を寄せる。早ければ21年末にも、日本で自律化した重機をお披露目するつもりだ。

米キャタピラーの「CAT725アーティキュレートダンプトラック」を自律化した(写真:SafeAI)
米キャタピラーの「CAT725アーティキュレートダンプトラック」を自律化した(写真:SafeAI)
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 SafeAIがダンプトラックに後付けしたのは、周囲の状況を認識するためのLiDAR(ライダー)やカメラ、自己位置・姿勢を推定するGNSS(衛星測位システムの総称)/IMU(慣性計測装置)ユニットなどと、データを処理するためのコンピューター。それほど特殊な装置を取り付けるわけではない。

 自律化の肝になるのが、機体を制御するソフトウエアだ。SafeAIでは、採石場の地形データをコンピューター上に取り込んで仮想の実験場をつくり、この中で走行シミュレーションを繰り返すことで、実際の現場でも安全かつ正確に走行できるようにした。

重機を自律化するために機体に取り付ける装置(資料:SafeAI)
重機を自律化するために機体に取り付ける装置(資料:SafeAI)
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 大林組ビジネスイノベーション推進室の杉浦伸哉副部長はシミュレーションについて、「まずはジオフェンス(仮想の地理的境界線)を設け、動き回れる範囲を限定したうえでルートを設定し、そのルートを問題なく走行できるようになるまで何度も学習を重ねる」と話す。

 シリコンバレーに駐在する同室の土屋貴史副課長は、「障害物を置いて通れなくしたり、人が出てきたりといった様々なパターンを学習させる。最初にフォード製のピックアップトラック(運転席後方に屋根のない荷台を有する米国で人気の車種)で試したうえで、ダンプトラックに実装した」と説明する。

コンピューター上でのシミュレーションのイメージ。現場の起伏などを再現してある(資料:SafeAI)
コンピューター上でのシミュレーションのイメージ。現場の起伏などを再現してある(資料:SafeAI)
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