全2052文字
PR

 自治体の職員が入札の予定価格を一方的に参加企業に伝える異例の事件が起こった。企業が入札辞退の意向を示したことで職員の不正が発覚した。

 茨城県は2021年9月27日、水戸合同庁舎の維持管理業務の一般競争入札で、事前に非公表の予定価格を参加企業の1社に教えたとして、水戸県税事務所の男性主任(38歳)を減給(10分の1)1カ月の懲戒処分にした。

 県は、相手方の企業が特定されるのを避けたいとの理由で、業務内容や参加企業などの情報をほとんど明らかにしていない。しかし主任が不正に手を染めた背景や経緯をたどると、公共事業を巡る発注者側の根深い問題の一端が浮かび上がる。

茨城県庁舎。現庁舎が開庁した1999年に撮影(写真:三島 叡)
茨城県庁舎。現庁舎が開庁した1999年に撮影(写真:三島 叡)
[画像のクリックで拡大表示]

 予定価格を漏らした主任が担当していたのは、県税事務所が入居する合同庁舎の管理や修繕などの発注業務だ。19年度に着任し、20年度末までの2年間に140件余りの契約に携わった。

 問題を起こしたのは、21年3月上旬に実施した維持管理業務の一般競争入札だ。参加企業の入札金額が全て予定価格を超えて不調となった。主任は直ちに再入札の準備に着手。翌日の再入札の実施を電子メールで全社に伝えた。一方で同日夜、入札で最も低い金額を提示した1社にメールを送り、一方的に予定価格を教えた。

 メールを受け取った企業は翌日午前、主任に電話をして、予定価格を知ったことを理由に再入札を辞退する意向を伝えた。主任は電話を終えると、すぐさま県税事務所の次長兼総務課長のもとに赴き、情報漏洩の事実を打ち明けた。同事務所は直ちに、予定していた再入札を取りやめた。

 県はその後、主任を発注業務から外し、仕様を見直すなどして入札をやり直した。その傍ら、主任や相手方企業への聞き取り調査を実施。主任が担当した約140件の契約を全て洗い直し、不正の有無を調べた。さらに、主任の行為が官製談合防止法8条の「職員による入札等の妨害」に抵触するとみて、県警や顧問弁護士らに対応を相談した。

 官製談合防止法8条では、職員が「事業者その他の者に予定価格その他の入札等に関する秘密を教示」などした場合、5年以下の懲役または250万円以下の罰金に処すると規定している。