全4858文字
PR

 災害関連死を含め死者・行方不明者28人を出した静岡県熱海市の土石流で、起点にあった盛り土の造成に対応した県職員の大半が大規模な崩落の発生を想定していなかったことが県第三者委員会の検証で分かった。

 第三者委が2022年3月28日に会見を開き、検証結果を報告した。同委は21年12月以降、盛り土の造成を巡る行政対応の検証を進めてきた。同委の会見での説明によると、盛り土の造成に対応した県職員はその危険性をある程度は把握していた。しかし、今回のような大規模な崩落を予想した関係者はほとんどいなかったという。

2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流では、災害関連死を含め27人が死亡、1人が行方不明となっている(写真:国土地理院)
2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流では、災害関連死を含め27人が死亡、1人が行方不明となっている(写真:国土地理院)
[画像のクリックで拡大表示]

 県が土石流発生3カ月後の21年10月に公表した盛り土の造成を巡る県と市の対応を記録した公文書では、「大雨が降ると斜面に亀裂が生じ、崩壊してもおかしくない」など、県職員が盛り土の崩落の可能性を指摘する記述が複数見られる。旧土地所有者が県と市に盛り土の造成計画を説明した08年1月の会合もその1つだ。

 旧土地所有者は会合で、熱海市内や神奈川県から土砂を運び入れ、6000m3ほどの盛り土を造成する計画を示した。これに対して、会合に出席した県熱海土木事務所の職員は、「台風などでの土石流が心配だ」と発言。市まちづくり課の職員も「堤体(規模)が大きすぎて非現実的だ」「土砂流出が怖い」などと述べている。

 旧土地所有者は06年9月、盛り土を造成した箇所を含む約120haの土地を取得。07年3月に県土採取等規制条例に基づく届け出をした。しかし、森林法の林地開発許可に違反していたことから、その是正作業が完了するまで、盛り土の造成工事に着手できなかった。08年1月の県や市との会合は、是正が完了する同年8月以降の工事着手に向けたものだった。

 旧土地所有者はその後、盛り土の造成計画を変更。09年12月に市に届け出をした盛り土量は3万6640m3と、当初の6倍に膨らんでいた。県が21年7月の土石流の発生後に推計したところ、現場に搬入可能な土砂の量は6000~8500m3だった。旧土地所有者が届け出の際に搬入可能な量を偽った可能性があるという。さらに県の推計では、実際に現場に持ち込まれた土砂の量は、届け出の約2倍の7万m3以上に達していたとみられる。

 08年1月の会合で旧土地所有者が県と市に報告した造成計画の盛り土量は、現場への搬入可能な土砂の量の上限に近い規模だった。それでも、熱海土木事務所の職員は、造成計画の説明を受けただけで、13年半後に現実となる土石流の発生可能性に気付いた。国土交通省のホームページには、次のような説明が載っている。

 「土石流とは、山腹、川底の石や土砂が長雨や集中豪雨などによって一気に下流へと押し流されるものをいう。その流れの速さは規模によって異なるが、時速20~40kmという速度で一瞬のうちに人家や畑などを壊滅させる」

 今回の第三者委の検証結果が事実だとすれば、熱海土木事務所の職員は、自ら口にした土石流について、国交省の説明のような認識を持っていなかったことになる。あるいは、それとは異なり、大規模な崩落を予想し得た数少ない職員の1人だったのかもしれない。

 仮に前者だとすれば、土木のプロであるはずの職員の能力に疑問符が付く。後者だとすれば、土石流の発生に対する同職員の危機感が、所属先の熱海土木事務所をはじめ、県の関係部署に十分に共有されていなかったことになる。

静岡県がまとめた土石流発生までの時系列表の一部。盛り土の造成を巡る行政対応を記した大量の公文書を基に県が作成。公文書と併せ、2021年10月に公表した。表中の「A社」は土地の旧所有者、「B社」は盛り土造成実行行為者。「写真4」と「写真6」は、それぞれ下の09年10月と10年10月の盛り土の様子(資料:静岡県)
静岡県がまとめた土石流発生までの時系列表の一部。盛り土の造成を巡る行政対応を記した大量の公文書を基に県が作成。公文書と併せ、2021年10月に公表した。表中の「A社」は土地の旧所有者、「B社」は盛り土造成実行行為者。「写真4」と「写真6」は、それぞれ下の09年10月と10年10月の盛り土の様子(資料:静岡県)
[画像のクリックで拡大表示]
静岡県熱海市で起こった土石流の起点にあった盛り土の2009年10月の様子。転圧不足の土砂が雨水で流れ出たことが確認された(写真:静岡県)
静岡県熱海市で起こった土石流の起点にあった盛り土の2009年10月の様子。転圧不足の土砂が雨水で流れ出たことが確認された(写真:静岡県)
[画像のクリックで拡大表示]
問題の盛り土の2010年10月の様子。建設発生土(残土)処分地の上部の道路よりも、さらに上に残土が積み上げられていた(写真:静岡県)
問題の盛り土の2010年10月の様子。建設発生土(残土)処分地の上部の道路よりも、さらに上に残土が積み上げられていた(写真:静岡県)
[画像のクリックで拡大表示]