宅地造成等規制法の2006年の改正で骨抜きにされた谷埋め盛り土の安全性に関する技術基準の考え方が、政府が今国会で成立を目指す改正宅造法(盛土規制法)で復活する可能性が出てきた。
斉藤鉄夫国土交通相は、改正法案を審議した22年4月6日の衆院国土交通委員会で、盛り土の安定性評価に用いる安定計算について、現行法で基本的に想定していない盛り土の滑り面(地山との境界部)の液状化を前提に、新たな技術基準を作る考えを表明した。
実現すれば、06年の法改正時に専門家が有効性に疑問を呈しながら、国交省が現行基準に取り入れた計算法が事実上機能しなくなる可能性がある。
政府は21年7月に静岡県熱海市で発生した土石流を受け、現行の宅造法を抜本的に見直す改正法案を22年3月に国会に提出した。この土石流では、起点にあった谷埋め盛り土の崩落が被害を拡大させたといわれる。改正法案では、国が盛り土の造成に関する技術的基準を定めると規定している。
冒頭の国土交通委員会で質問に立った立憲民主党の後藤祐一議員は、改正法の技術基準に対する政府の姿勢を追及。「盛り土や地盤の滑動崩落は液状化した場合に起こるのではないか」と尋ねると、参考人として出席した国交省の宇野善昌都市局長は「盛り土や地山の液状化は、盛り土の滑動崩落の一因になり得る」と答えた。
宇野局長は一方で、大規模な盛り土造成地の安全性の把握や造成宅地防災区域の指定に関する現行の技術的基準では、地震力に対する盛り土の安定性を評価する手法として、通常の地質調査結果に基づき、盛り土底部や地盤が液状化しない前提で、水平方向の地震力を安定計算に用いることを基本としていると説明。
続けて、「大規模盛土造成地の滑動崩落対策推進ガイドライン及び同解説」では、盛り土の底部などで液状化が懸念される場合には、水平方向の地震力を用いた安定計算に加え、液状化を引き起こす過剰な水圧による抵抗力の減少を考慮した安定計算の方法も併せて実施することが望ましい旨を記していると述べた。
これに対して後藤議員は、「現行の技術的基準では(液状化に)配慮することが望ましいといっているだけで、安定計算のガイドラインに入っていない」と指摘。「盛り土や地盤が液状化することを前提にした基準を作ると言えないか、大臣」と迫ると、斉藤国交相は「地山の表面の液状化などについては、まさにその通りだと思う。そういうものを盛り込んだ基準にしたい」と答弁した。