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 30人近くが犠牲となった静岡県熱海市の土石流で、起点にあった盛り土の造成に対応した市職員が人命に危険が及ぶ崩落の可能性を認識していなかったことが市の調査で分かった。県の調査でも、関係した県職員の大半が盛り土の大規模な崩落を予想していなかった。

 人命やインフラに大きな被害が出た過去の自然災害で、行政などが何度も口にしてきた「想定外」。熱海土石流でも同様の言葉が繰り返される結果となった。

熱海市が2009年11月に静岡県と盛り土造成への対応を協議した会合で提示した現場の写真(写真:熱海市)
熱海市が2009年11月に静岡県と盛り土造成への対応を協議した会合で提示した現場の写真(写真:熱海市)
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 21年7月に発生した土石流では、市北東部を流れる逢初川の源頭部に造成された盛り土が崩落して、被害を拡大させたといわれる。災害関連死1人を含む27人が死亡し、1人が行方不明となっている。全壊家屋53戸を含む136戸に被害が出た。

 市は同年10月、県とともに行政手続きに関する公文書を公開。12月から元職員を含む関係職員17人に聞き取りを行い、22年4月26日に調査結果を公表した。

 市の報告によると、職員らは盛り土の小崩落や表土の流出、逢初川や伊豆山港の濁りに対する危機感を抱いていた。しかし、人身災害につながるような盛り土の崩落は予想していなかったという。

 市は10年10月と11年3月に県と協議して、県の土採取等規制条例に基づき、盛り土を造成した旧土地所有者に土砂の搬入中止などを求める文書を発出。文面に「土砂崩壊が発生すると逢初川水域の住民の生命と財産に危険を及ぼす可能性がある」と記している。

 文書の発出に関わった職員は、「県からのアドバイスを参考に、指導に従わない事業者の行動変容を促すには、この程度の強力な文言が必要と考え、当該表現を使用した」と説明。市が文面通りの認識を持っていたわけではないと話した。

 職員らが盛り土崩落による人命被害の危険性を認識していなかった理由の一端は、旧土地所有者が09年12月に造成計画の変更届を提出した際の市の対応からもう読み取れる。

 変更届には3万6640m3の盛り土量が記されていた。書類を審査した職員は、旧土地所有者が提出した断面図と実際の地形が合わなかったことから、計画の半分の土砂も入らないと考えていた。土石流発生後の県の推定によると、実際には変更届の2倍の規模の土砂が持ち込まれていた。

 旧土地所有者が提出した平面図には、表面排水施設が記されていなかった。しかし職員は、進入路の上からの水の大半が他の沢に流れている状況を確認。逢初川の流域面積は狭く、他の流域からも盛り土に流入する水はほとんどないと考え、図面に排水施設のない状態で届け出を受理した。

 しかし、盛り土崩落の原因究明を進めている県検証委員会が22年3月に公表した中間報告書によると、盛り土が造成された場所は地下水が集まりやすく、北側に隣接する鳴沢川流域から地下水が流入していた可能性があったと指摘している。

 11年2月には、現土地所有者が盛り土を含む土地を取得した。職員らの説明では、市は12年2月に現土地所有者に盛り土の安全対策の実施を求める文書を発出した。しかし現土地所有者は、市と約束した防災措置を講じなかったという。

 それでも、職員らは人身災害につながる盛り土の崩落を予想しなかった。背景には、旧土地所有者が市の要請を受けて実施した防災措置に対する評価があった。

 市は11年6月、県と協議の上、県条例に基づき、旧土地所有者に安全対策の実施を求める措置命令の発出を検討した。しかし、旧土地所有者が防災措置を講じると約束したため、措置命令の発出を見送ったという経緯がある。

 職員らは旧土地所有者の防災措置について、現地調査などを通じて、(1)盛り土に流れ込む雨水や地下水への対策(2)転圧や段切り、整形などの施工方法(3)法面の仕上がりや緑化の状況――を確認し、盛り土に一定の安定性があると考えた。

2011年10月の現地調査時の様子(写真:熱海市)
2011年10月の現地調査時の様子(写真:熱海市)
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