副知事も「崩落しそうには見えない」
職員らはその後も、緑化で表土の流出リスクが減少したと判断。度重なる台風にも盛り土が対応できたとみていた。例えば、静岡県や関東地方などに甚大な被害をもたらした19年10月の東日本台風(台風19号)でも、盛り土は崩落しなかった。
この東日本台風での盛り土の状況を踏まえ、人身災害につながる崩落が起こる危険性を認識することは困難だったと証言する職員もいる。
県検証委の21年9月の初会合で、難波喬司副知事は前年の18年ごろに撮った盛り土の写真を取り上げ、次のような感想を述べている。
「盛り土の表面には草がしっかり生えていて、全体として安定して見える。崩落しそうには見えない」
土木の専門家である難波副知事の目にも、当時の盛り土は一見そのように映っていた。県や市の職員の多くも、同様の見方をしていた可能性がある。
これまでは、県と市の職員が盛り土崩落による人命への危険性を認識し、それを防ぐために現旧土地所有者らに再三にわたって安全対策を講じるよう指導してきたとみられていた。
県と市も、度重なる行政指導に従わなかった現旧土地所有者らの悪質性を強調し、ずさんな施工や安全対策の不備が盛り土崩落の大きな要因だと印象づける説明を行ってきた。
しかし、今回の県と市の調査結果は、そうした説明の前提を覆すものだ。特に市の報告では、職員が人命への危険性を認識するどころか、逆に盛り土の安定性をある程度評価していたことが明らかになった。これまでの説明との整合性が問われかねない事態だ。
さらに前述したように、旧土地所有者に土砂搬入中止などを求めた市長名の要請文では、たとえ行政指導に従わせる目的だったとしても、市職員が実際に認識していなかった「住民の生命と財産に危険を及ぼす可能性」という文言を文面に記していたことも発覚した。
しかも、市職員は県のアドバイスを参考に、そうした虚偽とも受け取られかねない表現を使用したという。事実であれば、県や市は行政目的の達成のために、虚偽の報告や説明もいとわない可能性があることを示唆している。市の調査結果は、行政不信を招きかねない深刻な問題をはらんでいる。