国土交通省の建設工事受注動態統計調査の不正処理で、二重計上のあった2013年度以降、受注高を年間で最大5兆円ほど過大に計上していた可能性があることが、国交省の検討会議の試算で分かった。不正に関する国交省の特別監察では、統計部門において専門知識や情報共有が不足するなど組織的な欠陥も明らかになった。いずれも国交省が22年5月13日に公表した。
建設受注統計は、国の基幹統計の1つで、建設業許可を持つ約1万2000社を対象に毎月実施している。国交省は、建設会社の調査票の提出が期限に間に合わなかった場合、都道府県に指示してデータを書き換え、遅れた月の分を提出された月の分に合算。一方で、提出されなかった月に計上した推計値を削除せずに残していたため、二重計上が生じた。
建設受注統計は建築着工統計調査と併せ、建設工事の出来高を推計する建設総合統計の算出の基になる。建設総合統計は国内総生産(GDP)の算出にも使われるため、建設受注統計のデータを遡って修正する必要がある。国交省は22年1月、統計の専門家らから成る検討会議を設置。二重計上など不正処理の影響を排除した遡及改定の検討に着手した。
しかし、国交省が過去の調査票の廃棄や書き換えをしていたため、建設会社が提出した元データを用いて遡及改定することは不可能だった。そこで検討会は、調査票の書き換えが少なく、建設会社が提出した月も明らかで、二重計上など不正処理の影響をほぼ正確に把握できる20年度分のデータを基に試算した。
その結果、提出月とその前月を合算していた19年12月分から21年3月分までは、元請けと下請けを合わせた総受注高が年間で2兆8000億円(3.6%)過大となった。同様に、提出月と前月、それ以前の月を合算していた13年4月分から19年11月分までの総受注高への影響を試算したところ、過大計上分は年間で5兆1000億円(6.6%)に上った。
ただ、GDPの算出に用いる建設総合統計への影響は、13年度分から20年度分でマイナス0.3%~プラス0.6%程度にとどまる。建設総合統計は「着工相当額×建設投資額/元請け受注総額」の計算式で各月の出来高を算出する。建設受注統計のデータを使うのは、分子の着工相当額と分母の元請け受注総額だ。建設受注統計の不正処理の影響が双方に同一に及ぶ場合、計算上は分子と分母で互いに打ち消し合う。
検討会議では、建設受注統計に不正処理があったとしても、その影響は建設総合統計にはほとんど及ばないと分析。さらに、GDPに占める建設分野の割合は1割程度で、建設総合統計の分はさらにその一部にすぎないことから、GDPに対する建設受注統計の不正処理の影響は軽微だとみている。しかし、だからといって、国交省が免責されるわけではない。