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 労働安全衛生法が保護対象としていない一人親方らの業務上災害の防止に向け、厚生労働省は個人事業者や中小企業事業主の安全衛生対策を強化する。

 厚労省は、2021年5月の建設アスベスト(石綿)訴訟の最高裁判決を踏まえ、労働者に該当しない一人親方らの健康障害を防ぐ必要があると判断。22年5月13日に開いた有識者検討会の初会合で議論を開始した。

厚生労働省は、最高裁が2021年5月に建設アスベスト訴訟で出した判決を踏まえ、一人親方らの安全衛生対策を強化する(写真:最高裁)
厚生労働省は、最高裁が2021年5月に建設アスベスト訴訟で出した判決を踏まえ、一人親方らの安全衛生対策を強化する(写真:最高裁)
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 検討会では、現行の安衛法における個人事業者らの位置付けや、労働者と違う立場にある個人事業者らの保護に必要な対策、経営基盤が脆弱な個人事業者らへの支援などを議論する。安衛法で労働者の危険や健康障害の防止措置を規定している具体的な条項の規制に関しても検討する。

 例えば安衛法20条は、事業者(労働者の雇用主)による機械・器具、爆発性・発火性・引火性の物、電気、熱などによる危険防止措置を規定。21条は、事業者による掘削、採石、荷役、伐木などの作業方法による危険防止の他、墜落や土砂崩壊などの恐れのある場所における危険防止の措置を定めている。

 安衛法の20条と21条はいずれも、事業者による原材料、ガス、蒸気、放射線、高温などによる健康障害防止措置を定めた22条と同様に、条文上の保護対象を労働者に限定していない。22条については、建設アスベスト訴訟の争点となったことから、保護対象を拡大するよう、先行して関係省令を改正。22年4月15日に公布した。改正省令は23年4月1日に施行する。

安全衛生法22条の関係省令の改正方針。厚生労働省はこの方針を基に関係11省令を改正し、2022年4月15日に公布した。改正省令は23年4月1日に施行する(資料:厚生労働省)
安全衛生法22条の関係省令の改正方針。厚生労働省はこの方針を基に関係11省令を改正し、2022年4月15日に公布した。改正省令は23年4月1日に施行する(資料:厚生労働省)
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労働安全衛生法22条関係の改正省令で見直した保護対象者。保護措置義務者とその対象者はそれぞれの請負契約の範囲を想定(資料:厚生労働省)
労働安全衛生法22条関係の改正省令で見直した保護対象者。保護措置義務者とその対象者はそれぞれの請負契約の範囲を想定(資料:厚生労働省)
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 厚労省が改正したのは、石綿障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則など安衛法22条に基づく11省令だ。危険で有害な作業を担う一人親方や下請け事業者ら請負人に加え、同じ作業場所で別の作業をしている一人親方や資材搬入事業者、警備員らに対しても、自社の労働者と同等の保護措置を講じるよう事業者に義務付ける。

 改正省令では、危険で有害な作業を担う請負人への保護措置として、有害物の発散防止装置の稼働などに関する配慮義務を新たに規定。同じ作業場所にいる労働者以外の者に対する保護措置では、危険箇所への立ち入りを禁止する義務や危険性を掲示して知らせる義務、事故発生時に退避させる義務などを追加した。

労働安全衛生法22条の関係省令における保護措置の改正概要(資料:厚生労働省)
労働安全衛生法22条の関係省令における保護措置の改正概要(資料:厚生労働省)
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