今後30年間に約70%の確率で発生するとみられる首都直下地震では、地盤の液状化やそれに伴う地盤の水平移動によって建物やインフラに大きな被害が出ると予想される。住宅が全壊し、高層ビルが傾く他、高架橋の崩落で走行中の列車や車が転落し、多数の死傷者が出る恐れがある。東京都が2022年5月25日に公表した新たな被害想定で明らかになった。
都が被害想定を見直すのは12年以来10年ぶりだ。国の中央防災会議の検討を踏まえ、都の防災会議がマグニチュード(M)7級の首都直下地震とM8~9級の海溝型地震に分類される5つの地震について、死傷者や建物などの被害量を推計した。
被害想定によると、最も被害が大きいのは首都直下地震の1つで、23区の南部を震源域とするM7.3の「都心南部直下地震」だ。区部の約6割が震度6強以上となり、江東区や江戸川区などでは震度7に達する。被害状況は地震が発生する季節や時刻、風速で異なるが、最大で死者6148人、建物被害(全壊・焼失)19万4431棟に上る。
都心南部直下地震は、12年の前回想定で被害が最大だった「東京湾北部地震」(M7.3)と地震動が異なるため、単純比較はできないものの、死者と建物被害はいずれも東京湾北部地震を36%ほど下回る。この10年間で住宅の耐震化率が81.2%から92%に向上し、木造住宅密集地域の面積が約1万6000haから約8600 haに半減した影響が大きいという。
ただし、科学的な知見に基づいて被害を定量化できる事象は限られる。定量化が可能なものでも、複数の仮説を積み重ねて算定しており、被害事象の全てを表しているわけではない。定量化された数値だけでは、被害の過小評価につながりかねない。そのため、今回の被害想定では、定量化が困難な事象についても、定性的な被害のシナリオを示している。その1つが、地盤の液状化による被害だ。
都心南部直下地震では、東京湾岸の埋め立て地や河川の沿岸部などを中心に液状化が発生する見込みだ。液状化の被害を定量化すると、地盤の沈下量は10cm未満で、全壊する建物は区部で1499棟、多摩地域で50棟だ。最大沈下量と併せ、全壊棟数の数値だけに着目すると、液状化の影響は限定的に見える。しかし、実際に生じる被害は様相が異なる。