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 東京電力福島第1原子力発電所の事故で避難住民らが国に損害賠償を求めた4件の集団訴訟で、最高裁は2022年6月17日、発電所を襲った津波が想定と異なっていたことなどを理由に、国の賠償責任を認めない判決を出した。

 最高裁は、たとえ国が東電に命じて防潮堤を設置していたとしても、事故を防げなかった可能性が高いと判断した。控訴審判決では4件のうち3件で、国の賠償責任を認めていた。

(写真:最高裁)
(写真:最高裁)
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 最高裁判決によると、東電は08年、子会社の東電設計を通じて、国の地震調査研究推進本部(地震本部)が02年に公表した地震活動の長期評価に基づき、土木学会が同年にまとめた原子力発電所の津波評価技術を使って、発電所に来襲する可能性のある津波の規模を試算した。

 試算では、敷地の南東側の前面に最大15.7mの津波が押し寄せるものの、東側前面に到来する津波は敷地の高さ(海抜10m)を超えず、津波による浸水深は4号機の原子炉建屋の付近で約2.6m、同タービン建屋の付近で約2mとなった。

 しかし東日本大震災では、試算と異なる津波が発生した。津波マグニチュードは9.1で、試算の前提としていた地震本部の長期評価の8.2前後を上回った。主要な建屋の付近の浸水深は、試算の最大約2.6mの2倍を超える最大約5.5mに及んだ。さらに、試算で想定していなかった敷地の東側からも大量の海水が浸入した。

 判決によると、原発事故が起こる前の原子炉施設の津波対策は、想定される津波の水位よりも高い場所に敷地を設け、津波による浸水が想定される場合には防潮堤や防波堤などの構造物を設置して防ぐことを基本としていた。

 当時は、防潮堤などを設置するだけでは津波波策として不十分だとする考え方は有力ではなかった。敷地の浸水を前提とする防護の措置が取られていた実績もみられなかった。浸水を前提とする防護措置については、国内で法令が整備されておらず、海外でも一般的に採用されていなかった。

 最高裁は事故前の状況を踏まえ、当時の知見の下では防潮堤の設置は原子炉施設の事故を防ぐための措置として合理的で確実なものだったと評価した。ただし、東電の試算に基づいて防潮堤を設置する場合、敷地の南東側からの海水の浸入を防ぐことに主眼を置いたものになる可能性が高かったと分析。次のように結論付けた。

 「仮に、経済産業大臣が長期評価を前提に、電気事業法40条に基づく規制権限を行使して、津波による発電所の事故を防ぐための適切な措置を講ずることを東京電力に義務付け、東京電力がその義務を履行していたとしても、津波の到来に伴って大量の海水が敷地に浸入することは避けられなかった可能性が高く、事故が発生するに至っていた可能性が相当にあるといわざるを得ない」