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戸田と三菱の価格差の要因は競争の有無

 企業ヒアリングを行った5月の会合でも、事業計画の迅速性の評価に対して、「事業者による地元での落札前の開発活動を誘発する仕組みとなっており、事業者負担の抑制とこれに伴う参加者の多様化を促す国によるセントラル方式(国が準備段階の調査などを行う手法)の導入の方向性と異なる」といった異論が出た。別の企業は次のように訴えた。

セントラル方式による案件形成のイメージ(資料:資源エネルギー庁、国土交通省)
セントラル方式による案件形成のイメージ(資料:資源エネルギー庁、国土交通省)
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 「環境アセスなどを早く始めた企業が有利になるのは自明で、そうした先行企業は応札前から評価点5~20点の加点が想定される。不公平な入札制度になるだけでなく、事業者選定前の環境アセスを評価しないという従来の政府見解とも異なる。不特定多数の企業が環境アセスなどを目的に地元・地域に入り乱れる恐れもある」

 経産省と国交省は、事業計画の迅速性を重視する理由について、ロシアによるウクライナ侵攻などを踏まえ、電力の安定供給や地産地消の観点から、再エネの導入を加速する必要があると説明する。ただ、業界では「先行企業の事前の取り組みを評価すべきだ」といった声が根強く、有識者会議の委員の1人も6月23日の会合で次のように述べている。

 「前回の入札(秋田県沖と千葉県沖の計3海域の事業者選定)では、先行していたことがある意味では何の評価も受けていない。各海域で先行して(地元に)入っているところが、あまり評価されていないのは残念だった。先行していたことのメリット、地元で色々な対策を取っていたり技術的に検討していたりということが迅速性に絡んでくるので、ある程度それを評価するような修正が大事ではないか」

 5月の会合では、ヒアリングを受けた企業が「早く始めた企業が有利になるのは自明だ」と指摘した。それは、新たな仕組みを導入した結果として先行企業が有利になるのではなく、先行企業を優遇したいがために新たな仕組みを導入すると捉えることもできる。有識者会議の委員の意見に加え、両省が業界や政界の“圧力”を受けて公募ルールの見直しに着手した経緯を踏まえると、ウクライナ情勢だけが迅速性評価の理由でないことは明らかだ。

 そうした政策意図が透け、公募前から先行企業の優位が明らかであれば、後発企業は参加を見送り、先行企業が無風下で事業を受注できる可能性がある。そうなれば、事業者選定の際に価格競争が起こらないため、先行企業による発電コストの削減が進まない恐れもある。一方で、受注を切望する後発企業は、価格点による逆転を目指し、思い切った低価格を提示するため、逆に価格競争が激しくなるといった見方もある。

 ただ5月の会合では、委員から「(見直し案によって)今後の公募では価格差は縮まると考えられるが、事業実現性の評価において、どの程度の点数差が付けば価格点差を逆転できるのか」といった意見が出た。公募ルールの見直しの背景に、三菱商事グループが行ったような価格点による逆転を阻止したいという思惑があるのは否めない。そうであるならば、価格競争が起こりにくい可能性はある。

 再エネ海域利用法に基づく洋上風力発電事業では、公募前から先行企業の優位が明らかで、他の企業が参加を見送ったケースがある。経産省と国交省が21年6月に戸田建設グループを事業者に選定した長崎県沖の洋上風力発電事業だ。

 両省は20年6月、再エネ海域利用法の初案件として、長崎県沖の浮体式洋上風力発電の事業者の公募を開始した。戸田建設は長年、長崎県沖で浮体式の実証事業に取り組んできた。国内で浮体式の実証事業に取り組んでいる企業が少なかったこともあり、両省は事業者選定で供給価格を審査対象から外し、事業実現性だけで評価することにした。

 他の企業グループは価格点で逆転できないことから、戸田建設グループの受注が公募前から本命視されていた。結局、公募に応じたのは同グループだけだった。公募結果の公表後、一部では「出来レース」と揶揄(やゆ)する向きもあった。

 戸田建設グループは、長崎県沖で発電した電力を36円/kWhの価格で売電する。この価格は、両省が公募要件として示したもので、同グループが独自に設定したわけではない。それでも、三菱商事グループが秋田県沖など3海域で提示した着床式の売電価格(11.99円~16.49円/kWh)と比べると、2~3倍ほど高い。

 いずれも国の固定価格買い取り制度(FIT)を利用して、発電した電力を売電する。FITでは浮体式と着床式で異なる価格を設定しているため、双方の売電価格の単純な比較はできないかもしれない。しかし、三菱商事グループの提示価格は、両省が公募要件として示した上限価格(29円/kWh)も4~6割ほど下回る。戸田建設グループの売電価格との大きな乖離(かいり)は、事業者選定時の価格競争の有無に根本的な要因があるのではないか。

 経産省と国交省は、今回の公募ルールの見直しについて、1者による複数事業の独占を防ぎ、多くの企業の参入を促す狙いがあると説明する。そのために、複数の海域で同時に事業者を公募する場合、特定の企業グループが受注できる件数を制限する仕組みを導入する。しかし、事業計画の迅速性の評価のように、先行企業が有利になる仕組みを設ければ、その意図とは裏腹に、競争制限を招く恐れもある。

三菱商事グループが事業者に選定された3海域の公募結果。経済産業省と国土交通省の資料を基に日経クロステックが作成
三菱商事グループが事業者に選定された3海域の公募結果。経済産業省と国土交通省の資料を基に日経クロステックが作成
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