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 リニア中央新幹線のトンネル工事の本格着手を認めていない静岡県が、沿線の9都府県から成る「建設促進期成同盟会」に加入することが正式に決まった。同盟会が求める現行計画での建設促進を静岡県が認めたからだ。しかし静岡県の川勝平太知事は、同盟会が期待するトンネル工事の早期着手に慎重な姿勢を崩していない。

山梨県内のリニア実験線で走行試験中のL0(エル・ゼロ)系改良型試験車(写真:リニア中央新幹線建設促進期成同盟会)
山梨県内のリニア実験線で走行試験中のL0(エル・ゼロ)系改良型試験車(写真:リニア中央新幹線建設促進期成同盟会)
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 川勝知事が2022年6月2日の中部圏知事会で、同盟会の会長を務める愛知県の大村秀章知事に加入申請書を手渡してから約2週間後。6月15日の会見でも、トンネル工事による大井川流域の水資源や生態系への影響など、県が示した47項目の問題を全て解決するまで、同盟会加入後も県内の着工を認めない方針を示した。

 川勝知事は、同盟会への加入申請後の6月15日の会見で、静岡県北部の南アルプスを通るルートが突然決まったと、その決定過程に関する疑義を提示。国土交通相宛てに文書を送り、ルート決定過程を明らかにするよう要請したと説明した。

 静岡県は約2週間後、リニアの現行計画への同意を記した文書を送付。その文書が愛知県に届いた6月29日、川勝知事は会見で、県内ルートに関する国交省の返書が5日前に届いたと明かし、その内容について次のように批判した。

 「環境への影響が大きかろうと小さかろうと関係なしに、経済性や速達性を勘案して選んだと。こう言っているわけだ。驚いた。環境への影響を軽視していると自ら認めた。そういう回答になっている。(ルート決定過程の)不透明性を解消できたとは到底言えない。改めて国交相に正面から回答してもらいたい」

 6月29日の会見に出席した主要メディアは、静岡県が国交省の説明に納得できなければ、県を迂回するルートへの変更を求めていくのかと質問。静岡県の同盟会加入に絡み、川勝知事がルート変更の議論を自ら先導しないと明言したこととの整合性を問う声も上がった。

 川勝知事は「これはこれとしてやってもらう」などと返答。さらに、「全国新幹線鉄道整備法に書かれているように、(ルートは)事業者が考えること。こちらがルートをどうすると言える資格も立場も責任も義務もない」などと正面からの回答を避けた。しかし、食い下がる記者らが「知事からルート変更の議論をしないということでよいか」と畳みかけると、川勝知事は最終的に「そうだ」と答えた。

 そもそも、川勝知事が県内ルートの決定過程に疑義を唱え始めたのは、この会見の2カ月ほど前、4月26日に開かれた県専門部会の会合の後だ。川勝知事は6月29日の会見で、会合に関わっていた県職員がJR東海の提出資料の問題に気付いたと語った。県がその詳細を確認したところ、ルート決定過程に疑義が生じたという。

 しかしテレビ静岡の記者は、県職員が大問題を発見したかのように話す川勝知事の姿勢を批判した。JR東海が数年前に県に提出した段ボール箱10個分の資料の中に、川勝知事が問題視する資料も含まれていたと指摘。「そのときに職員はなぜ気付かなかったのか、その方が問題ではないか」と追及した。

 川勝知事は、記者が指摘した事実を認めた上で、職員が資料の問題に当時気付かなかった理由は分からないと回答。一方で、「膨大な資料だった。そのときに一番の論点になっていたかどうか」などと答えた。記者は職員が気付かなかったことへの反省はないのかとただすと、川勝知事は「反省すべきだ」と釈明した。

 静岡県はこれまで、水資源問題などを巡って、議論の“蒸し返し”とも受け取られかねない行動を取ることがあった。特に、県が望まぬ方向に事態が進みそうになると、そうした挙に出ることがある。例えば、国交省が県とJR東海の仲介に乗り出すきっかけとなった19年10月4日の県専門部会の会合だ。