東京電力福島第1原子力発電所の事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁は2022年7月13日、旧経営陣4人に計13兆3210億円の賠償を命じる判決を出した。旧経営陣が津波による敷地の浸水の可能性を念頭に、主要建屋の開口部に防水扉を設置するなど防護措置(水密化)を講じていれば事故を防げたと断定した。
旧経営陣は7月27日、東京地裁の判決を不服として、東京高裁に控訴した。これを受け、株主側も同日、東京地裁の判決で主張が認められなかった部分を不服として、東京高裁に控訴した。株主側は旧経営陣に計22兆円の賠償を求めていた。
避難住民らによる原発事故を巡る集団訴訟では、最高裁が22年6月17日、防潮堤を設置しても事故を防げなかったと断じ、国の責任を認めない判決を出した。水密化については、事故を教訓としたもので、その発生前に講じられた蓋然性はないと判断している。
わずか1カ月ほどの間に立て続けに出た原発事故を巡る2つの判決。訴訟の種類や内容は異なるものの、問われたのはいずれも事前の津波対策で事故を防げたか否かだ。東京地裁と最高裁は、この争点に対して正反対の結論を下した。
一般的に、地裁や高裁の判断は最高裁判決の影響を受けるとされる。しかし東京地裁は、直前の最高裁判決にひるまず、具体的な事実を列挙して、水密化に関する最高裁の“後知恵説”を論破した。背景にあるのは、「過酷事故」を万が一にも起こしてはならないとする危機意識だ。東京地裁は判決で、次のように述べている。
「原子力発電所において、大量の放射性物質を拡散させる過酷事故が発生すると、国土の広範な地域および国民全体に対しても、その生命、身体および財産上の甚大な被害を及ぼし、地域の社会的・経済的コミュニティーの崩壊ないし喪失を生じさせ、ひいては我が国そのものの崩壊にもつながりかねない」
東京地裁はそれゆえに、過酷事故が生じないための最低限の津波対策を指示しなかった旧経営陣の任務懈怠(けたい)を指弾。旧経営陣が実施すべき最低限の津波対策として挙げたのが、水密化による防護措置だ。
水密化については最高裁が、事故以前に国内で原子炉施設の主たる津波対策として、敷地の浸水を前提とした防護措置が採用された実績があったとうかがえないと指摘。防潮堤と併せて他の対策を講じることを検討した蓋然性があるとは言えないと断じている。しかし東京地裁は、次の4つの事実を挙げ、最高裁の見方を否定した。